「……いっ! いいわよ、そんなの! ああ、もうっ!」
しかし、翠はなぜか苛立ったように頭をぐちゃぐちゃと自分の手でかき回す。
そのせいで、髪の毛がぼさぼさに乱れてしまっている。
「とにかく! 黒崎先輩に連絡ついたら、あたしにも知らせなさいよ!」
そう言って、ズンズンと足音を響かせるように大股で歩きながら、そのまま立ち去ってしまった。てっきり家の方向も同じなので、このまま一緒に帰るのかと思ったのだが、別にそういうつもりじゃなかったらしい。
まあ、翠には翠の予定もあるのだろう。もしかしたら、あの団子頭の女子生徒、香澄さんと、このあと何か予定があるのかもしれない。
そんなことを考えていると、俺はいつのまにか自分が笑っていることに気が付いた。
心に溜まっていた、重苦しい靄のようなものも消えてしまっている。
「……やっぱ凄いな、翠は」
そう呟いたあと、俺は図書室を閉める準備をしながら、決意する。
――紗季先輩に、会いに行こう。
当然、家に行っても、また追い返されるだけだろう。
だけど俺は、紗季先輩に会わなければいけないと、そう思うのだった。