「……わかりました。色々と、時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」

 そう判断した俺は、頭を下げてその場を離れようとする。きっと、その様子は防犯カメラにも写っているので、本当に俺たちが去っていくところも確認していることだろう。

「ちょ……ちょっと慎太郎!?」

 自転車を押して去っていく俺の後ろを付いてきながら、翠は不満そうに異論を唱える。

「帰っちゃっていいわけ!? いや、そりゃあ……あたしに付き合ってもらってるってだけなんだけどさ……」

「いいんだ。少なくとも、ここで騒いでいたら本当に警察を呼ばれるかもしれないし」

 俺はともかく、これ以上、翠を巻き込むわけにはいかない。

「また、先輩が学校に来たら翠にも連絡を入れるよ。そのときに、手を出してしまったことを謝ってくれたらいいから……」

「でも……」

 翠は、まだ何か言いたそうにしていたけど、最終的には俺の判断に従うことにしたようで、反論は返ってこなかった。

「……わかった。じゃあ、黒崎先輩の体調が良くなったら、すぐにあたしに連絡しなさいよ」

 俺は、そんな翠の提案に「悪いな」とだけ返答した。

 正直、俺も紗季先輩に会えなかったのは不安で仕方がなかった。

 だが、同時にあの人……紗季先輩の母親が、余計な嘘を吐く理由もないと判断した。

 もし、俺たちに話したことが作り話だったとして、それを俺たちに伝えるメリットなんてどこにもない。

 となると、紗季先輩は本当に、俺が昨日会ったお兄さんに連れられて、病院に向かった可能性が高い。