翠|《みどり》の後ろに乗せたまま、俺たちは下り坂を疾走する。

 かなりスピードは出ていると思うのだが、翠は全く怯えている様子がない。

「ねえ、慎太郎(しんたろう)黒崎(くろさき)先輩の家まであとどれくらい?」

「……あと少しで着くはずだ」

 そう答えたところで、下り坂が終わり道路は平坦な道へと変化していく。

 俺はペダルに力を込めて、勢いを殺さないように必死で漕いでいく。今までスピードに乗っていた勢いで涼しかった風もなくなり、暑い日差しが容赦なく俺たちを照り付けた。

「あーあ、あたしたち、このことがバレたらまた怒られるんだろうなぁ。内申点とか下がったら困るんだけど」

 翠が後ろでそんなことを呟くので、俺はふと、翠の将来のことを考えてしまう。

 過去に戻ってきた俺のせいで、翠の将来に何か変化が起きてしまうのは避けたい。

「そうなったときは……俺がなんとかするよ」

 だから、俺は翠に迷惑をかけてはいけないと、本気でそう思っての発言だったのだが、

「……慎太郎が? ふふっ、何よそれ」

 俺の背中から返ってきたのは、愉快な笑い声だった。

「そんなの、あんたがなんとかできるわけないじゃん」

「そうかもだけど……」

 翠の言うことは至極もっともで、むしろ俺の言い分を教師陣が素直に聞いてくれるとは思わない。

「でも、ありがとう」

 ただ、最後に翠は、そんな言葉を俺に言ってくれた。