走って去ってしまった(みどり)を捜し始めて数十分後。

 俺よりも何倍も体力がある翠を捜し出すのは、少々骨が折れることだと覚悟していた俺だったが、すぐに見つかった。

 翠は渡り廊下に設置されている休憩所のような場所に、設置されているベンチの上で体操座りをしたまま、自分の膝に顔をうずめるような姿勢で座っていた。

 見つけた時は「ダンゴムシみたいだな」と思ったが、本人に言ったら絶対に機嫌を損ねるような気がしたので、自重しておくことにする。

 ただ、その休憩所は学校内ではそんなに目立つ場所ではなかった為、部活の生徒たちの姿も見当たらなかった。

 おまけに、ちゃんと屋根もついていて日陰になっているので、ゆっくりと話をするのには丁度いい場所だ。

 翠はまだ、俺の存在には気付いていない。

 ゆっくりと近づいていくと、「……ひくっ」と、鼻を啜るような音が聞こえてきた。

 それでも、俺は彼女の傍まで行って、声をかける。

「……なぁ、翠」

 すると、うさぎが飛び起きるようにビクッ! と、身体を震わせて顔を上げる。

 俺の予想通り、翠は目と鼻を真っ赤にさせて、頬には涙が流れた後が残っていた。

 だが、俺の顔を見ると、翠はゴシゴシと自分の目を擦ったのち、不貞腐れたような顔を見せたと思ったら、またさっきまでと同じ姿勢をとって顔を隠してしまった。

「……何よ。あたしを笑いにきたの……」

「そんな訳ないだろ。お前がいきなり飛び出すから、心配で追いかけてきたんだよ」

 きっかけは紗季先輩の一言だったが、俺だって翠の様子が心配だったのは事実だったので、そのまま素直にその気持ちを口にするが、翠からはなんの反応も返ってこなかった。

「……隣、座るぞ」

 一応、許可を取ってから隣に座る。

 だが、隣に座ったのはいいものの、肝心の話す内容を全く考えていなかったことに今更気付いて、ただお互いが黙る時間が流れてしまうという事態に陥ってしまった。

「……なんか、飲み物でも買うか?」

 重い空気をなんとか払拭しようとそんな提案をしたところで、俺は財布を自分の鞄ごと図書室に置いてきたことを思い出して、頭をかかえる。

「……すまん、財布置いてきたんだった」

 素直に謝罪の言葉を口にすると、今までずっと黙っていた翠が、顔をあげて俺のほうを呆れた顔で見た後、小さくため息をついた。

「…………ほんと、馬鹿なんだから」

 それからは、俺とは視線を合わせなかったものの、顔をあげてぽつぽつと翠は話し始めた。