「いや……そんな、ことは……」

 そう。

 俺たちは、翠が想像しているような関係性ではない。

 それは以前、翠に呼び出されて行った喫茶店でも、否定している。

 だが、その事実は、今の翠には火に油を注ぐようなものだったことに、馬鹿な俺は気付いてもいなかったのだ。

「……黒崎先輩、本当ですか? 慎太郎はこう言ってますけど」

 俺の発言を裏付けしたいのか、紗季先輩にも翠は同じ質問を投げつける。

「……ああ、そうだね。慎太郎くんの言う通りだよ」

 先輩は、いつもより動揺の色を滲ませながら、翠の質問に答えた。

 だが、その答えに何故か翠は納得をしなかったようで、先輩に向ける鋭い視線が一層強くなっている。

 むしろ、先輩に対して、さらに敵意に近い感情を向けていることが俺にも伝わってきた。

「……だったら」

 そして、翠は抑揚のない声で、先輩に新たな質問をぶつける。


「黒崎先輩は……慎太郎のことが好きなんですか?」


 俺は、自分が問いかけられた訳でもないのに、心臓が跳ね上がりそうになった。