「えっと、白石くん。すまないがこのまま妹を預かってもいいかな? 車で来ているからきみのことも送ってあげたいんだけど、親の車だから知らない人間を乗せたことがバレたらちょっと面倒なんだ」
きっと、悪意はないのだろうが『知らない人間』と言われたことに対して、やや疎外感を感じてしまう。
紗季先輩の家族にとって俺はまさに『知らない人間』にカテゴライズされて当然だ。
だが、ここで紗季先輩と別れることは、何故だか俺にはできなかった。
「いえ、俺は、紗季先輩と……」
だから、俺はお兄さんが紗季先輩を連れて行くことを、拒否しようとしたのだが、
「慎太郎くん」
俺が答える前に、紗季先輩が言った。
「……私は、このまま兄さんと帰るよ」
「えっ……?」
思わず、そんな情けない声が漏れてしまう。
だけど、紗季先輩はそんな俺から離れていってしまう。
「白石くん。このお詫びはいつか必ずどこかでさせてもらうよ。それじゃあ行こうか、紗季」
そして、お兄さんは口元に笑みを浮かべて、近くにきた紗季先輩の肩に、自分の手を乗せた。
「慎太郎くん……」
そして、俺に背中を向ける寸前に、小さな声で、こう呟いた。
「ごめんね」
その声は、今まで聞いたどんな紗季先輩の声よりも、儚くて、壊れてしまいそうなものだった。