「できた!」
結局15分もかけて一つの問題を解き終えた歌は、にんまりと笑って私にノートを見せてきた。
途端、彼女の笑顔の先に揺れている花がぼやけて、歌が手に持つノートに焦点が合った。
ノートには、3つのりんごと4つのみかん、2つの桃、一本線で描かれた二人の棒人間の絵が見える。それから、横に3×2+4×2+2×2=6+8+4=18という式と答え。
「うん、正解です!」
先生気取りになった私は、彼女のノートの棒人間をもう少しアレンジして、二人の女の子の顔を描いてみた。
「これなに?」
無邪気な表情で私の手元を覗き込んでくる歌に、私はこう言った。
「歌ちゃんと私」
当時ショートヘアだった自分と、長い髪を二つに編んだ彼女が、正面を向いて笑っている。多少不恰好な図ではあったが、我ながら二人の特徴をうまく掴んでいると思う。
「わ、すごいすごい!」
大した絵ではないのに、「瞳美ちゃん天才!」とか、「瞳美ちゃんは漫画家さんになれるね!」とか大袈裟に自分を褒め称える歌を見て、なんだか笑ってしまった。
そして、ちょっぴりこそばゆい。
それから、私が歌の家で勉強をした日について覚えていることといえば、歌がその後すぐに
「おかあーさん!」と言って、母親の元へ駆けてゆき、「これ、瞳美ちゃんが描いたの」とあたかも自慢でもするかのように誇らしげに語っていたことだけだ。
歌の家には、それからというものめっきり遊びに行かなくなった。
しかし、その日を境に友情を深めた私たちは、中学二年生まで、ずっとずっと一緒にいた。
同じクラスだった時には、朝から夕方まで行動を共にする。移動教室があれば、絶対に二人一緒に移動をする。忘れ物をした時は、お互いに貸し借りする。別のクラスになっても、放課後は必ず一緒に家に帰る。
歌の家の方が、私の家よりも学校に近い場所にあったため、毎日彼女の白い屋根のお家の前で、さよならした。
歌の家にはあれからほとんどお邪魔しなかったけれど、毎日家の前で彼女と別れるため、私にとって、そのお城みたいな家は、馴染み深い場所になった。
彼女の母親には、授業参観で見かけると挨拶をする程度だったが、小学生の頃に歌の家にお邪魔して以来、ゆっくり話した記憶はない。
けれど、彼女がいつも家の玄関の扉を開ける時、弾んだ声で「ただいま!」という声を聞く限り、歌にとってその家がどれほど居心地の良い場所なのか、想像するに難くなかった。
だからこそ、衝撃だったのだ。
中学二年生の二学期が始まったばかりの月に、彼女があの家で、死んでしまったことが。
彼女の、「ただいま!」が、耳にずっと残っているのに、彼女の身体がこの世から消えてしまったなんて、そんなの信じられなかったんだ——。
結局15分もかけて一つの問題を解き終えた歌は、にんまりと笑って私にノートを見せてきた。
途端、彼女の笑顔の先に揺れている花がぼやけて、歌が手に持つノートに焦点が合った。
ノートには、3つのりんごと4つのみかん、2つの桃、一本線で描かれた二人の棒人間の絵が見える。それから、横に3×2+4×2+2×2=6+8+4=18という式と答え。
「うん、正解です!」
先生気取りになった私は、彼女のノートの棒人間をもう少しアレンジして、二人の女の子の顔を描いてみた。
「これなに?」
無邪気な表情で私の手元を覗き込んでくる歌に、私はこう言った。
「歌ちゃんと私」
当時ショートヘアだった自分と、長い髪を二つに編んだ彼女が、正面を向いて笑っている。多少不恰好な図ではあったが、我ながら二人の特徴をうまく掴んでいると思う。
「わ、すごいすごい!」
大した絵ではないのに、「瞳美ちゃん天才!」とか、「瞳美ちゃんは漫画家さんになれるね!」とか大袈裟に自分を褒め称える歌を見て、なんだか笑ってしまった。
そして、ちょっぴりこそばゆい。
それから、私が歌の家で勉強をした日について覚えていることといえば、歌がその後すぐに
「おかあーさん!」と言って、母親の元へ駆けてゆき、「これ、瞳美ちゃんが描いたの」とあたかも自慢でもするかのように誇らしげに語っていたことだけだ。
歌の家には、それからというものめっきり遊びに行かなくなった。
しかし、その日を境に友情を深めた私たちは、中学二年生まで、ずっとずっと一緒にいた。
同じクラスだった時には、朝から夕方まで行動を共にする。移動教室があれば、絶対に二人一緒に移動をする。忘れ物をした時は、お互いに貸し借りする。別のクラスになっても、放課後は必ず一緒に家に帰る。
歌の家の方が、私の家よりも学校に近い場所にあったため、毎日彼女の白い屋根のお家の前で、さよならした。
歌の家にはあれからほとんどお邪魔しなかったけれど、毎日家の前で彼女と別れるため、私にとって、そのお城みたいな家は、馴染み深い場所になった。
彼女の母親には、授業参観で見かけると挨拶をする程度だったが、小学生の頃に歌の家にお邪魔して以来、ゆっくり話した記憶はない。
けれど、彼女がいつも家の玄関の扉を開ける時、弾んだ声で「ただいま!」という声を聞く限り、歌にとってその家がどれほど居心地の良い場所なのか、想像するに難くなかった。
だからこそ、衝撃だったのだ。
中学二年生の二学期が始まったばかりの月に、彼女があの家で、死んでしまったことが。
彼女の、「ただいま!」が、耳にずっと残っているのに、彼女の身体がこの世から消えてしまったなんて、そんなの信じられなかったんだ——。