俺たちは結局、大学から歩いてものの10分もしないうちにたどり着いた定食屋に入ることになった。
「定食屋でごめんな」
本当はもっとおしゃれなカフェにでも行きたかったのだけれど、大学の付近に女の子と二人きりで入りたいと思えるようなおしゃれなカフェなんかなかった。
「ううん。最近私、定食とかちゃんとしたご飯食べてなかったからむしろ嬉しいよ」
はあ、まったく彼女は、まるで天使じゃないか。
お世辞でも嬉しいその言葉が、俺の心をじんわりと温めてくれた。
「うーん、私、これがいい」
テーブル席で早速メニューをめくっていた彼女が指差したのは、「カレイの煮付け定食」だった。うん、なかなか渋くて良いチョイスだ。それに対して俺は「デミグラスハンバーグ定食」。小さな子供とお母さんみたいな組み合わせでちょっと恥ずかしかった。
けれど彼女がまた、
「お、いいね、ハンバーグ。お腹満たされるよね」
と俺の選択を肯定してくれたのに頰が緩んだ。
八方美人でもただの社交辞令でもなんでも良い。ただ彼女が自分の行いにいちいち同意してくれるのが単純に嬉しい。
「雨宮さんって、一人暮らしだっけ?」
定食を注文してからものの10分ほどで運ばれてきた熱々のご飯を咀嚼しながら、俺は目の前の彼女に訊いた。
「そうそう。実家からは2時間かかるから、わがまま言って一人暮らしさせても
らってる」
あちち、とお椀の蓋を開けてすぐに口をつけた味噌汁を前にして、彼女は言った。
その後彼女が口にした聞き慣れない地名は、隣の県でも市外で、俺もあまり訪れたことのない土地だった。
「そうなんだ。じゃあまだ生活にも慣れてないでしょ」
「うん、まだ全然。こっち出てくるまでご飯も作ったことなかったらからさ、こうして定食が食べられるのがありがたいの」
「ああ、そうだよな。俺も飯なんか作れないけどさ、もし自分が一人暮らしなん
か始めてみたら、飢え死にしそうだ」
「ははっ。その時は差し入れ持って行ってあげる」
もし本当にそんなことが起こるのなら、俺はぜひ飢え死にしたい。
なんて、馬鹿みたいな妄想に夢を膨らませながら、デミグラスソースの垂れるハンバーグを口に入れた。
なんだこれ、めちゃくちゃうまいじゃないか。
調子に乗ってハンバーグと一緒に熱々のご飯も一気に口に放り込む。少し熱いが肉汁の滴るハンバーグと白ご飯という最高の組み合わせに、俺は熱さなどまったく気にならなかった。
対して、目の前ではふうふう、と味噌汁を冷ましながらようやくごくんと飲み込んだ彼女が、なんだか小動物みたいで可愛らしい。味噌汁を食べるのにも一苦労している彼女はどうやら猫舌みたいだ。
「ごちそうさま!」
長時間の授業でお腹が空きまくっていた俺は、十分なボリュームのハンバーグ定食を一気に食べ終えてしまった。
「気持ちの良い食べっぷりね」
「だろ」
丁寧に骨を避けながらカレイを食べる彼女は、俺が先に食べ終わっても自分のペースを乱さずにゆっくりと箸を動かしていた。そんなマイペースさに、俺は魅了された。彼女からは、俺だけじゃなく他の人間のいかなる行動も、彼女の生きるスピードに全く影響を与えさせない凛々しさみたいなものを感じたのだ。
「ごちそうさまでした」
俺が食べ終わって15分もした頃、彼女はようやく自分の分のご飯を食べ終えて箸を置いた。
「美味しかったね」
とても満足そうに微笑む彼女を見て、俺は心の底から喜びを覚えた。
「定食屋でごめんな」
本当はもっとおしゃれなカフェにでも行きたかったのだけれど、大学の付近に女の子と二人きりで入りたいと思えるようなおしゃれなカフェなんかなかった。
「ううん。最近私、定食とかちゃんとしたご飯食べてなかったからむしろ嬉しいよ」
はあ、まったく彼女は、まるで天使じゃないか。
お世辞でも嬉しいその言葉が、俺の心をじんわりと温めてくれた。
「うーん、私、これがいい」
テーブル席で早速メニューをめくっていた彼女が指差したのは、「カレイの煮付け定食」だった。うん、なかなか渋くて良いチョイスだ。それに対して俺は「デミグラスハンバーグ定食」。小さな子供とお母さんみたいな組み合わせでちょっと恥ずかしかった。
けれど彼女がまた、
「お、いいね、ハンバーグ。お腹満たされるよね」
と俺の選択を肯定してくれたのに頰が緩んだ。
八方美人でもただの社交辞令でもなんでも良い。ただ彼女が自分の行いにいちいち同意してくれるのが単純に嬉しい。
「雨宮さんって、一人暮らしだっけ?」
定食を注文してからものの10分ほどで運ばれてきた熱々のご飯を咀嚼しながら、俺は目の前の彼女に訊いた。
「そうそう。実家からは2時間かかるから、わがまま言って一人暮らしさせても
らってる」
あちち、とお椀の蓋を開けてすぐに口をつけた味噌汁を前にして、彼女は言った。
その後彼女が口にした聞き慣れない地名は、隣の県でも市外で、俺もあまり訪れたことのない土地だった。
「そうなんだ。じゃあまだ生活にも慣れてないでしょ」
「うん、まだ全然。こっち出てくるまでご飯も作ったことなかったらからさ、こうして定食が食べられるのがありがたいの」
「ああ、そうだよな。俺も飯なんか作れないけどさ、もし自分が一人暮らしなん
か始めてみたら、飢え死にしそうだ」
「ははっ。その時は差し入れ持って行ってあげる」
もし本当にそんなことが起こるのなら、俺はぜひ飢え死にしたい。
なんて、馬鹿みたいな妄想に夢を膨らませながら、デミグラスソースの垂れるハンバーグを口に入れた。
なんだこれ、めちゃくちゃうまいじゃないか。
調子に乗ってハンバーグと一緒に熱々のご飯も一気に口に放り込む。少し熱いが肉汁の滴るハンバーグと白ご飯という最高の組み合わせに、俺は熱さなどまったく気にならなかった。
対して、目の前ではふうふう、と味噌汁を冷ましながらようやくごくんと飲み込んだ彼女が、なんだか小動物みたいで可愛らしい。味噌汁を食べるのにも一苦労している彼女はどうやら猫舌みたいだ。
「ごちそうさま!」
長時間の授業でお腹が空きまくっていた俺は、十分なボリュームのハンバーグ定食を一気に食べ終えてしまった。
「気持ちの良い食べっぷりね」
「だろ」
丁寧に骨を避けながらカレイを食べる彼女は、俺が先に食べ終わっても自分のペースを乱さずにゆっくりと箸を動かしていた。そんなマイペースさに、俺は魅了された。彼女からは、俺だけじゃなく他の人間のいかなる行動も、彼女の生きるスピードに全く影響を与えさせない凛々しさみたいなものを感じたのだ。
「ごちそうさまでした」
俺が食べ終わって15分もした頃、彼女はようやく自分の分のご飯を食べ終えて箸を置いた。
「美味しかったね」
とても満足そうに微笑む彼女を見て、俺は心の底から喜びを覚えた。