E大学は、予想以上に受験結果を見に来た受験生で溢れていた。
時刻は午前11時で、開示は10時からなので、もうほとんどの人が先に見に来て帰る人は帰ったのでは? と予想していたため意外だった。

「えーっと、社会学部は……」

俺と中島が受験した社会学部の掲示板をキョロキョロと探す。なにせキャンパスが広すぎるため、ぱっと見ではどこにどの学部の校舎があるのか分からなかった。

「あ、あっちみたいだ」

中島が先に社会学部棟を発見して、俺たちは二人で中島の指差す方に向かった。

「あったあった」

すでに掲示板の前には結果を見に来た多くの受験生たちが群がっており、俺は自分の受験番号「301」を見つけるために、背伸びしながら掲示板を凝視する。しかし、やはり簡単には見つけられない。

「俺、ちょっと見てくるわ」

自分と違い、身長160cmで小柄な中島が、人の群れの中にひょいっと入り込む。俺は身長が178cmで体格もそこそこあるため、彼の後は追わないことにした。まあ、奴に自分の受験番号も伝えてあるため、ついでに俺の分も見てきてくれるだろう、という他力本願で。
自分の受験結果ぐらい自分で見なくていいのか、という意見がありそうだが、俺はそこまで自分で結果を確認したいという願望がない。むしろ、受験結果なんて心臓に悪いものを、できれば自分の目で確かめたくはなかった。人づてに知れた方が気楽なのだ。

中島が掲示板を見てくれている間、興味本位で周りを見回してみる。
涙を流している人が多いが、受験に受かったのかダメだったのか、どちらの可能性もありうる。あまりじっと見るのはやめておこう。自分もまだ結果が分からない身なのだ。泣きはしないと思うが、落ちていたら流石にメンタルにくる。

しかし、そんな俺の決意はどこへやら、歓喜の声や胴上げ風景が溢れる中で、一人の女の子が耳を抑えてぎゅっと目を瞑っているのが目に飛び込んできて、思わず凝視した。
最初は、「落ちちゃったのかな」と思い同情したが、なんとなく彼女の様子を見ていると受験結果に悲しんでいるのではないという気がしてきた。
悲しんでいるというより、苦しそう。
まるで息ができていないかのように、耳と胸を交互に抑えていた。

「あの———」

様子が変だと思い、咄嗟に声をかけようとしたとき。

「早坂〜! あったぞ!」

掲示板の方から、中島の声が飛んできて振り返った。

「301番、載ってる! ちなみに俺も合格した!」

何もそんなところから大声で叫ばなくてもいいのに、と呆れながらもほっと安心しているうちに、例の女の子のことを見失ってしまっていた。