とにかく家から少しでも早く離れたくて無我夢中で走った。住宅街を抜けて、突き当たりを右へ曲がった瞬間。
「ハル!?」
ここにいるはずのない水帆の声が僕の耳へ入り込んだ。
「水帆? どうして、ここに……」
僕は、戸惑った。
だって水帆は、あの場所で待ってる、と言っていたから。
「ハルが今日話すって言ってたからそれで気になって……そしたらいてもたってもいられなくて、気づいたらここまで来てたみたい」
そう告げられて気が緩んだ僕は、そっか、と言葉を落としながら力なく笑う。
いつになっても僕は情けない。弱くて、勇気もなくて、いつまでたっても自分に自信が持てない。
「ハル……?」
ああ、どうしよう。立ち止まったら足が動かない。足の裏に鉛でもついているかのように重たくて持ち上がらない。
「あー…ごめん。今、気が緩んじゃって…」
親を目の前にすると緊張する。張り詰めた空気で息がつまりそうで、唾を飲む音さえも聞こえてしまいそうで。
さっきまで生きた心地がしなかった。
「そっか……そうだよね」
水帆は何も言わず頷いた。
そして、
「ハル、ちょっとごめんね」
そう言うと、おもむろに僕の手を掴んだ。驚いた僕は、えっ、と声を漏らして手をぶんぶん振り上げるけれど、全くビクともしない。
「とにかく今はあの場所に行こう」
僕の手をさらにぎゅっと握りしめると、アスファルトを蹴り上げて僕を引っ張った。
「え、ちょ、待っ…」言葉にならない声だけがその場に残って、僕は夜空を前に走った。
そのとき視界の端に映り込んだ夜空には、たくさんの星々が光り輝いて見えたーー。