「偶然にね、美術コンクールの会場でハルがどこを受験するのか聞いたの。それで私、絶対同じ学校に行こうって勉強頑張った」
……あっ、そういえば担任の先生が引率してくれたとき進路の話になって、サラッとそんな話したことあったっけ。
今の今まですっかり忘れてた。
けれど、
「なにもそこまでしなくても……」
僕なんて取るに足らない存在だし。
「私、知りたかったんだぁ」
さらりと風に乗って落ちてきて、
「この絵を描いた人がどんな人なのか知りたかった。すごく気になったの、浜野晴海くんって子のことが」
僕を見て、微笑んだ。
僕はなぜだかたまらず恥ずかしくなって、ふいに目を逸らす。
「でも、なかなか会えなくて」
「この学校かなり生徒が多いからね」
最低限の生活をしていたら、全生徒と会うのは不可能だ。
「結果こうして出会えたんだけどね」
さっきまで悲しそうに苦しそうに話していた彼女とはまるで別人のように見えた。
でも、どちらも水帆であることに違いはなくて。
「私ね、明日こそ変わりたい、生まれ変わりたいって思ったの。そう思わせてくれたのは、ハルの絵のおかげなんだよ」
彼女は僕の絵を褒めてくれる。
けれど、
「僕の絵にそんな力なんてないよ」
僕には、何もない。力もなければ親に反抗する勇気すらない。
「言ったでしょ」
それなのに水帆はーー
「ハルの絵に救われたからって。だから私は、ハルを追いかけてこの学校へやって来たって」
……なぜだ。
少し前まで僕たちは何も面識はなくて、お互いのこと知らずに生きていたはずなのに。
「どうしてそこまで水帆は……」
強いんだろう。
女の子なのに、たくましい。
僕なんかよりもうんと、何十倍も。
「ハルと出会って、こうして話すようになって……私、少しだけど前向きになれたの」
「……前向きに?」
「久しぶりにね、ピアノを弾いてみたくなって、こっそり朝の音楽室で弾いてみたことがあったの」
ピアノ? 朝の音楽室?