「氷のように固まって、その場から一歩も動けなくて、息も苦しくて……」

 僕は、コンクールなんか出たことなんかないけれど、水帆の表情を見れば会場の雰囲気は相当張り詰めたものだろうと容易に想像できる。

「私、それがトラウマになっちゃって……人前でピアノを弾くのが怖くなったの……」

「だから……」今にも糸が切れそうなほど張り詰めた声で、

「ーーピアノ、辞めちゃったの」

 泣きそうな顔して、笑った。

 ううん、もう泣いている。
 水帆の叫ぶ声が聞こえたんだ、心の奥底から。

 まるで自分でも見ているかのようだった。

「でもね」と言って、おもむろにスカートのポケットから生徒手帳を取り出すと、

「そんなとき、この絵に出会ったの」

 僕に向かって一枚の写真を手向けた。

 僕は、静かに受け取る。

「えっ、これって……」

 すると、写真の中に映し出されていたものは、中学三年の頃、美術コンクールで僕が応募した絵だった。

「これ、ハルだよね? 作品名の下に、〝浜野晴海〟って書いてあった」
「うん……」

 間違いなく僕が描いた絵だ。

 でも、なんでこんなものを水帆が……

「ピアノが弾けなくなったトラウマで落ち込んでたときに、友達が私のことを心配して外に連れ出してくれたの。そのときに美術コンクールの絵を見つけたんだ」

「そう、だったんだ」

 その美術コンクールは、学年から数人応募しなきゃならなくてそれで人数集めのだけに選ばれただけだった。

「タイトルは〝海の向こうに沈む夕陽と僕〟だったよね」

 すっかり僕は忘れかけていたのに。

「よく、覚えてるね」

 自分より僕のこと理解されてる気がして少し恥ずかしくなって目線を下げると、

「覚えてるよ、だってこの絵に救われたんだから」

 なんの躊躇いもなく告げられる。

「この絵があったおかげで私、希望が持てたの」
「希望……?」

 うん、と頷いてわずかに微笑んだあと、

「ハルと同じ学校へ行くこと。そうすれば何か変わるんじゃないかなって……それがあのときの私が見つけた、たった一つの光だった」

「えっ……?」

 希望が、僕に会うこと?