「厳しく……?」
「私のお母さんね、ピアノの先生をしていたの。だからその影響で私もピアノ弾くようになったんだけど……」
どんどん身体は小さくなって、どんどん声はか細くなって、
「一位を取るようになってから練習もうんと増えて、お母さんは厳しくなったの。間違うと怒ることもあったし、練習中はお母さんではなく〝先生〟と呼びなさいって言われるようになって」
ほんとの親子なのに練習中は師弟関係だなんて、その頃の水帆の寂しさを想像すると胸が痛む。
「最初はね……」
言いながら、空を見上げた。
「ただピアノを弾くのが楽しかったの。できなかったことができるようになって、次はもっと難しいもの練習しようって前向きになって」
「……うん」
「でもね、お母さんとそんな関係になってからピアノ弾くの全然楽しくなくなって……毎日毎日弾いてたピアノの練習も苦痛でしかなくなってた」
ーー水帆の声が泣いている。
心が痛いと叫んでいる。
「そんな毎日を過ごしていたある日、コンクールに出たんだけどね。私、弾けなかった……」
もういいよ、無理しなくていいよ、言葉をかけようと思ったときーー
「今まで、あれだけたくさんの人の前で弾けてたのはピアノを弾くのが楽しかったから。お母さんに一位を取って褒めてもらいたかった。その一心で頑張ってこれた……」
痛いほど水帆の気持ちが伝わって、
「でも、暗転されたホールの中、私の場所だけスポットライトが当たってて、それが意外と熱いとか、ホールの中は広いのに一人一人の顔が見えるように思ったり……ピアノの練習が苦痛だと思ってた私が弾く資格なんてないんじゃないかなって思ったら……」
両手を見つめた水帆の手のひらは、わずかに震えていた。
「……私、怖くて手が動かなかった」
まるであの日を思い出したみたいに。凍りついたような表情で。