落ちたジュースを拾うと、僕の横を水帆が通り過ぎて自販機の前で立ち止まる。
 チャリンチャリン、硬貨を入れる音が静かに響いたあと、ピッ、ガゴンッ、鈍い音が落ちた。

 さっきの話題に触れたい。けれど、触れられない。

 前に水帆が言っていた言葉を思い出す。

 ーー〝誰にも触れられたくないことの一つや二つ持っていて当たり前だから〟と。

 それってもしかして……

「ねえハル、もしかしてさっきの話聞いてた?」

 ゆっくりと僕の元へ落ちてきて、心は少しざわざわする。

「え? な、んのこと……?」

 突然尋ねられるものだから、慌てておどけてみせることしかできなかった僕。
 もっとうまい交わし方だってあっただろうに……

 気まずくなって立ち上がったあと、目線をジュースへと落としていると、ハルらしいね、とふふっと笑い声が漏れた。
 そのときの声にいつものような元気はなさそうで。

 水帆に声をかけてあげたい。でも、なんて? こういうときどう言ってあげればいいんだ?

「ハル、ちょっと今から時間あるかな」
「え……時間?」

 なんだ。どうしたんだ、そう思って恐る恐る顔をあげると、悲しそうに揺れる瞳とぶつかった。

「ハルに話しておきたいことがあるんだ」

 その瞳から逸らすことができなくて、僕はただ黙って頷いたんだ。