「美紗ってばすーぐどっか行くんだから!」
「ごめんごめん」
「先生が美紗のこと探してたよ」
「え、ほんとに?」

 途端に慌てた様子を見せたあと、じゃあ私もう行くね! 水帆またね! と手をあげると、僕の方へ向かって来る。

 うわっ、やばい! こっち来る……!

 慌てて自販機の横に隠れて息を潜む。

「美紗、さっきの岩倉さん?」
「そうだよ、去年同じクラスだったの。それとね私のいとこが水帆のこと知ってたみたいなんだ! なんでも聖女学園から転入試験受けてここに入学したみたいなんだよね!」
「えっ、そうなの? でもなんで?」
「さぁ、それは私にも分からないけど……」

 自販機の前を通り過ぎるとき、そんな声が聞こえた。

「でもね、なんかすごいピアノが上手だったらしいんだって! コンクールに出るほど。でも、中学三年になってからはピアノ弾かなかったんだってさ。それから元気もあまりなかったみたいだって」

 彼女たちのそんなやりとりを聞いていると、それより早く先生のところ行こう! 私が怒られちゃうから! もう一人がそう言うと、そうだったね! と思い出したようにパタパタと足音が二つ遠ざかる。

 こちらに戻って来ないことを確認すると、静かに自販機の横からゆっくりと出る。

 ふうー、危なかったぁ。これぞ間一髪ってところだ。

「それにしてもさっきの話……」

 水帆が聖女学園にいたことが本当ならば、転入試験受けてこの学校にやって来たことになるけれど。

 なんにせよ、誰が出くわすかも分からないこんなところであんな話をするなんてプライバシーもあったものじゃない。しかも、水帆の声色が落ちていたのに平気で話を続けるなんて……
 自分の思いばかりをしゃべって人の心を汲み取ることができない。それはまるで僕の両親のようだ。

「……ハル?」

 ふいに聞こえた声にビクッと肩をあげたと同時に、僕の手の中から落ちたジュースがぱたんっと床へ落ちる。

「みっ、水帆……?!」

 振り向くと、さっきまで角の向こう側にいた彼女が背後までやって来ていた。

「ど、どうしたの!?」
「私? …は、ちょっと喉乾いたから飲み物を買いに」
「そ、そっか…」