決意を固めたその日、言おうと思ったけれど案の定親は仕事で家に不在でその日は言えなかった。
そんなことが続き結局それから丸三日過ぎた。
そんなある日の休み時間、ジュースを買いに行った帰り道。
「ーーあっ、岩倉さん!」
ふいにそんな声が聞こえて、ピタリと足が止まった。
一瞬、岩倉? と迷ってピンとこなかったけれど、しばらく悩んで水帆のことだと思い出した僕は、角からそうっと顔だけを覗かせる。
「久しぶりだね。元気してた?」
すると、廊下に水帆ともう一人女の子がいた。
「うん、久しぶりだね」
久しぶり? 誰だろう? 去年同じクラスの人とかかな……。
「教室が端っこ同士だからなかなか学校で会わないね。教室はもう慣れた? 友達できた?」
「うん、大丈夫だよ」
「水帆、自分から声かけないからちゃんと友達できるか心配してたんだよね。でも今、楽しそうで安心した」
仲睦まじく話す姿は、どうやらクラスメイトだったみたいだ。
これ以上盗み見するのはやめよう、そう思って来た道を引き返そうと踵を返す。
「そういえば水帆、聖女学園からこの学校に来たんだって?」
ーーだが、そんな言葉を聞いて僕の足はまたピタリと止まった。
「えっ、どうしてそれを……」
……〝聖女学園〟?
そこって結構昔から有名な女子校じゃなかったっけ……あれ。でも、そこって……
「あー、えっとね! 私のいとこがその学園に行ってるんだけどね、水帆のこと知ってたんだ」
「そ、そうなの……?」
「うん。でも聖女って小中高一環の学校でしょ。水帆、転入試験受けてこの学校に来たの?」
ーーそうだ! 小中高一貫なんだ!
「う、うん、そうなの。黙っててごめんね」
水帆の表情は見えないけれど、どことなく声に元気がなかった。
「ううん、それは大丈夫だけど。水帆、ピアノ弾けたんだね! いとこが言ってたよ! 〝岩倉さんはピアノが上手だった〟って」
「そ、そんなこと、ない…よ」
ーーピアノが上手だった……?
それってまるで過去形みたいな。
「あー、いたいた! 美紗!」
廊下の奥から大きな声をあげながら水帆たちの元へ走って来る新たな女の子は、二人のそばへ駆け寄ると、ちょっともうー、と膝に手をついて息を整える。