「自分を誰かと比べようとしなくていいんです。だって元々みんな違うのですから」

 そう言って、僕たちの教室を見渡して手当たり次第に手を差し伸べながら、

「あなたにはあなたの良さがある。きみにはきみよ良さがある。違うところがあるのならその個性を出せばいい。何も怖いことはありません」

 何もかも初めて聞いた言葉なのに、頭がどんどん吸収していく。

「だから、やりたいと思ったら挑戦してみたいことが見つかったらまずは声に出してみてください」

 一言一句漏らぬように。

「どうせ無理だから、といって諦めずまずは声に出すことから初めてみてください。そしたら必ず伝わるはずです」

 先生は、そう言った。

 僕の両親はどうなんだろう。
 僕が美術大学に行きたいと言って、果たして承諾してくれるのだろうか。許してくれるだろうか。

 いいや、きっと無理だ。
 そんなの時間の無駄だから、とでも言われるに決まってる。

「絵はまだ拙いけれど、一人一人味があって個性があって、まだまだ伸びしろはたくさんあります」

 タイミング悪く終わりのチャイムが鳴る。

 けれど、先生は、

「みなさんの絵はとても素晴らしい。それをどうか忘れないで」

 最後にそう告げて、教室を見渡した。
太陽のように優しい表情で。

 ……ああ、やっぱり諦めたくない。

 僕はどうしても絵を描くことが好きみたいだ。

 そしてそのあとに、これで授業を終わります、先生が一礼するとどこからともなく拍手があがった。

 ーー熱かった。絵に対する想いが。
 ーー強かった。人に対する情が。

 拍手がこだます中、僕は俯きながら目に浮かんだ涙をそっと拭ったんだ。

 誰にも気づかれないようにーー。