「そして最後にもう一つ、伝えたいことがあります」
そう前置きをするから僕は、さらにごくりと息を飲む。
「それは、夢を諦めないということ。みなさん今日ここへ来たということは少なからず絵を描くことに興味があるということ。中には本気でプロを目指す人もいるかと思います。でも、いろんな事情があって続けられなくて諦めていく人も少なからずいます。そういう生徒も見てきました」
この世界では強者と弱者がいるように、成功者と失敗者がいる。
当然僕はどちらとも後者だ。
自分のやりたいことがあってもその道へ進むことができない。自由に選ぶ権利がない。
だから諦めるほかないのに。
「ここにいるみんなとまた会えるとは限りません。明日が、未来が、どうなるかなんて誰にも分からないからです」
確かに未来なんて分からない。
僕にだって、水帆にだって、ここにいるみんなだって。
「けれど、誰かに言われて諦めるのだけはやめてください。自分の意思だけは自分だけでも大切にしてあげてください。守ってあげてください、自分の人生を。どうか諦めないでください」
先生の口から紡がれる言葉が僕の心に突き刺さり、泣いてしまいそうだった。
そんな僕は、たまらず目線を下げる。
「自分のことを信じてあげたらきっと未来は切り開かれます。例え、時間がかかったとしても、決してそれは無駄にはなりません。自分の糧になります」
母さんは、僕が悩んだ時間はどうせ無駄だと言った。
でも先生は、違った。
時間がかかってもそれは無駄ではないと言った。自分の糧になると言った。
そして。
「畑に蒔いた種は芽が出るまで時間がかかります。実がなるまでうんと時間がかかります。それと同じで今、あなたたちは種を蒔くときなのです。だから、時間がかかって当たり前なのです。焦らなくたってちゃんと実はなります」
例え話がうんとズレたかと思ったけれど、着地点は間違いなく人生の話で。