「ぼぼぼ、僕……ですか?」

 何かの間違いかもしれない。そう思って隣に座っている水帆を見る。ーーが、「ええ、そうよ」と僕の問いに頷いた先生。

「何か勉強でもしていた?」
「いっ、いえ、特には……」
「あら、そうなの」

 僕は今まで絵の勉強をすることができていなかった。それなのに先生に上手い、と言われた。

「でもまだ基礎は疎かね」
「あ……はい」
「ここで学べばもっと上手くなるわ。必ずね」

 僕を見て、微笑んだ。

 その言葉が僕には褒め言葉のように聞こえて嬉しくなった僕は。

「あっ、ありがとう、ございます!」

 一人の人間として認められたような、そんな気がした。

「あら、あなたは」

 今度は水帆のキャンパスを覗き込むと、気が付いた彼女は、へ、と気の抜けた声を漏らしながら顔をあげる。

「上手い下手で言えばうまくはないけど絵心はあるわ」
「えっ、ほんとですか?」
「ええ。でも、まだまだ努力が必要よ」

 一度上げてから、下げた先生の言葉を聞いて僕が笑うと、ちょっとハル! と恥ずかしそうに頬を膨らませた水帆。

「二人とも頑張りなさいね」

 僕たちにそう言うと、その場を離れる。

 そうして今度はべつの見学者に声をかけていた。

 それから僕たちは、お互い顔を見合わせて笑ったあと、絵を描くことに集中した。