それから教えられた道を進んで教室へ入ると、顧問の先生がやって来て見学が始まった。
そして美術大学内を見学して回った。
たくさんの大学生が絵を学ぶために基礎から学んでいる。年に数回ある個展やコンテストなどに提出して賞をもらうこともあるらしい。なかには卒業する前に名前を覚えてもらうこともあるとか。
しばらく大学内を見て回ったあと、また最初にいた教室に戻って来た。
「それじゃあ今から絵を描いてもらいます」
見学といっても絵を描くことを体験できるみたいで、キャンパスノートと鉛筆を用意された。
机の前にはフルーツの盛り合わせのサンプルが置かれた。
ふいに、水帆が僕の袖を引っ張った。
彼女へ視線を向けると、
「ハルの力を発揮するときだね」
こそっと小声で僕に呟いて微笑んだあと、置かれた鉛筆を手に取った。
僕の力なんて大したものではない……けれど、水帆がついて来てくれたおかげで僕はこうして大学で絵の練習をすることができるんだ。
おもむろにあたりへ視線を向けると、みんな夢中でフルーツの盛り合わせを見ては描き、見ては描きを繰り返していた。
みんな必死に、真剣に、絵を描いている。
ここにいる人はみんな絵を描くことが好きなんだ。
同じ仲間がたくさんいる。
僕は、一人じゃないんだ。
家の中で一人落ち込んで、身動きがとれない僕とはもう違う。
僕のためについて来てくれた水帆だっている。
彼女は、絵を描くことに興味がないはずなのに、うーんこうじゃないああじゃない、とぶつぶつ呟きながら鉛筆を動かした。いつになく真剣に、時折楽しそうに頬を緩めながら。
「あら、あなた上手いわね」
ふいに声が落ちてきて、え、と困惑した声を漏らしながらキャンパスから目を離して顔をあげる。
すると、僕のキャンパスを見ていた顧問の先生がいて僕は身体が強張った。