電車に乗ること二五分。歩くこと五分。計三十分で目的地の美大へやって来た。

 目の前には、憧れの美術大学の敷地が広がっていた。

「……あのさ、水帆ここ場違いじゃない?」

 その光景を見て僕は足がすくんだ。

「全然そんなことないよ」
「いやっ、あるって!」

 いくら見た目を誤魔化したとしても、中身だけは誤魔化しがきかない。
 だって中身は、高校二年生の浜野晴海なのだから。

「ていうか、今思い出したけど学校に無断欠席しちゃった!」

 うわ、やばい。どうしよう。無断欠席したのが親に連絡でもされたらとんでもないことになる。

 焦った僕は美大の前であたふたする。
水帆がいなければ不審者間違いなし、だ。

「そのことなら大丈夫だよ」

 ふいに告げられて、え、と声を漏らしながら彼女を見つめて立ち止まる。

「だ、大丈夫ってなにが……?」
「ちゃんとハルの分も欠席届けの連絡したから」
「えっ…?」

 〝ハルの分も欠席届けの連絡した……?〟

「連絡ってなに!?」
「声色を変えてハルのお母さんのフリしたの。もちろん私の連絡もしてるから問題ないよ」
「ええ? そんなことしたの!?」
「連絡入れなきゃ怪しまれちゃうからね」
「そ、そうかもしれないけど……」

 行動力があるっていうか大胆っていうか。水帆って見た目によらず結構ませた女の子なんだなぁ……。

「とにかくここまで来たからには腹括らなきゃ!」

 僕よりも堂々としてるみたいだ。

「ほら、早く行こう!」

 僕の腕を掴んで引っ張るから、

「ちょ、待って。一旦深呼吸させて」

 足でブレーキをかける。
大丈夫、大丈夫だと心に繰り返し唱えていると。

「念願の美術大学だもんね。そりゃあ興奮するよね」

 明らかに誤解をしているようだったけれど、そこはあえて訂正はしなかった。