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〝九時に東駅前に。服装はなるべく大学生らしい服装で来てね〟
朝、そんなメッセージが水帆から届いた僕は、大学生らしい服装ってどんなのだ?と頭をしばらく悩ませた。
そして平日の今日、幸い両親もいなくて学校を休むことはバレなさそうだと安堵する。
「ごめん、遅くなって!」
服装を最後の最後まで悩んでしまったため、予定の九時を少し過ぎてしまったところで東駅前についた僕は、怒られることを想定していたのに咎めることもせず「ううん、大丈夫」と言って笑ったあと「ほら早く行こう」と歩き出す水帆。
女の子よりも待ち合わせ場所に遅れてしまうなんて最悪だ……そう思いながら彼女のあとを追いかけた。
「ハル、なんか大学生っぽいね」
「ほんと? じゃあ悩んだ甲斐があるなぁ」
服装を褒められてホッとする。
「もしかしてそれで遅れちゃったとか?」
不意をつくように告げられた言葉に驚いたのは言うまでもなく。
「ご、ごめん……!」
僕は当然平謝りをするが、彼女はふふふっと笑って、ハルらしいね、と答えた。
水帆の前では、素の自分でいられるみたいだ。
……彼女の隣は居心地がいい。
「私は?」
急にその場に立ち止まるから、おのずと僕も立ち止まる。
「……えっ?」
「私どう? 大学生に見える?」
くるんと一回転して見せるから、スカートがふわりと踊った。
「うん、見える」
「ほんと? よかったぁ」
嬉しそうに歩き出した。
いつも制服しか見たことがなくて、教室では物静かな彼女がロングスカートにカーディガンを着ると、同級生ではなく落ち着いた大学生に見えて、不意打ちを食らった気分になった。
ああ、なんかこれってーー…
「ハル、どうかした? 具合悪い?」
ふいに立ち止まり、僕の方を振り返る。
「…う、ううん、何でもない!」
それから水帆のあとを追いかけて僕たちは電車へと乗った。
まるで今日はデートみたいだ。
ーーそう思ったのは、僕だけの秘密だ。