「全然無駄じゃないよ!!」

 僕の言葉を遮った水帆の瞳は真っ直ぐ揺らぐことがなくて、一瞬僕はその瞳に飲み込まれそうになる。

「これからのハルの未来がかかってるのに、それが無駄なわけないでしょ」

 〝どうせ悩んだって無駄なんだから〟

 僕の母さんは、そう言ったのに水帆は対照的で。

「ハルの人生はハルのものなんだよ」
「で、でも…」

 躊躇う僕に、

「あの歌詞覚えてる?」

 突拍子もなく告げるから、え、と困惑した僕は声をもらす。
 すると、おもむろに目を閉じた彼女は。

「〝未完成な僕たちは、自分の言葉で表現するのが下手で失敗ばかり。でも失敗を恐れてばかりでは何もできない。何度失敗したっていい。がむしゃらに走って明日を描く。それが未来への一番の近道だ〟」

 突然、声に歌詞を乗せた水帆。

「それってなんか今のハルみたいだね」
「……えっ、僕?」

 いきなりどうしたんだ、そう思って開いた口が塞がらない。

「〝言葉で表現するのが下手で何もできない〟ーーが今のハル」

 次々と彼女の口からこぼれ落ちる言葉を掬い上げるので必死にいると、

「〝失敗したっていいからがむしゃらに走って明日を描く〟ーーがこれからのハル!」

 ぴょんっとベンチから立ち上がる。

 彼女の髪の毛とスカートがふわりと揺れた。