「ほんとはさ、こんなふうに誰かと放課後に過ごしたりしたいんだよね」

 次から次へと溢れてくる。

「他愛もないことで笑いあったり、時には喧嘩して、でも仲直りして。買い食いだってしてみたいし、寄り道だってしてみたいし……」

 取るに足らない日常が僕には恋しくて。

「でも、そんなふつうの生活が僕には許されないんだ」

 みんなにとって〝当たり前〟であっても僕にとっては〝当たり前〟ではなくなる。

 ふつうではなくなる。

「そんな窮屈な毎日がもううんざりで……」

 逃げてしまいたくて。

「でも僕は逃げられない。浜野晴海として産まれたからには、僕は僕の人生を歩むことができない」
「ハル……」
「それが僕の存在理由なんだ」

 きっと僕がこの世界に産声をあげたそのときから僕の人生は決まっていた。
 だって母さんと父さんの間に産まれてきたというのは、そういう宿命なのだから。

「でも、ほんとは……」

 心のどこかでずっと思っていた。

「ハル……」

 僕を心配そうに見つめる彼女から、そうっと視線を逸らして。

「どうすれば僕らしく生きることができるんだろうって思った。どうすれば親に認められるんだろうって、ずっと考えた」

 考えて考えて、考え抜いた。

 結局、弱い自分は。

「考えたけど、最後はどうすることもできなかった。ただ親の言う通りにすることが一番楽な道なのかもって諦めたんだ」

 僕のことを育ててくれたのはほかでもない親だ。
 反抗して敵うわけがないと知っていた。

 だから、親に従うほかなかった。

「やりたいことを諦めてT大学に行くことを決めたんだ」

 ーーはず、だったのに。

「そんなとき水帆が僕に言ったんだ」

 そう言って彼女へと視線を戻すと、

「え、私……?」

「〝ハルが描く絵には命がある。風景をしっかり観察してどんなふうにして生きていたのか、ちゃんとリアルに色が付く。まるで絵が生きているみたいに〟って」

 そんなふうに言ってくれた人は初めてだった。

「そ、それは私が思ったことを言ったまでというか……」

 照れくさそうに僕から目を逸らす彼女に、「それにこうも言ってた」と僕は続けた。