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 このまま水帆に嘘をつき続けるのか、それとも素直に話すべきか。どうするのが一番良い選択なのか、散々考えた。

 けれど、校長先生と話をして僕の心は少しだけ軽くなった。

 その結果、僕が出した答えは。

「あのさ、水帆」

 放課後、帰り支度をしていた彼女に声をかけると、手を止めて「なに?」と僕を見た。

 放課後は、どこにも寄らず学校にもほとんど残らず真っ先に誰よりも早く帰っていた僕が、まさかこんな選択をすることになるなんて少し前の僕は想像もつかないだろう。

「えっと、」

 落ち着け、僕。焦るな。ゆっくりで大丈夫。まずは誘うだけでいいんだ。すーはーと深呼吸をして心を落ち着かせてから。

「今から時間ある?」
「……今から?」
「うん、水帆に聞いてほしいことがあるんだ」

 僕がそう言うと、え、と声を漏らしながら一瞬驚いた表情を浮かべて。

「……うん、分かった」

 しばらくして頷いた。
 僕は、断られなくてホッと安堵する。

「教室じゃあ目立つだからどこかに移動しよう。どこがいいかな……中庭? 屋上?」

 どれも途中で邪魔が入ってダメ何がする。
 うーん、じゃあ一体どこに行けば……

「あの…私、いいところ知ってるんだけど」

 おもむろにそう告げた水帆。

「静かなところの方が話しやすいんだよね?」
「あ、うん」
「少しここから離れるけど大丈夫?」

 そう告げられて問題集のことが頭に浮かんだけれど、今大事なのはそれじゃない。
 そう思った僕は、

「うん、大丈夫」

 二つ返事で承諾したのだ。