ーーけれど、そんな僕にも誰にも言えない憧れがある。
それは、放課後に友達とどこかへ遊びに行ったり、親にバレないように深夜までテレビを見ながらスナック菓子を食べたり、アニメや漫画を読んだり。
高校生の今だからこそできる全てを、青春を、全力で謳歌したいのだ。
だが、そうゆう普通のことさえもできない僕。
浜野家に生まれなければ違う人生を送ることができただろうか。それならどんなによかったことか。ーーそう何度思っただろう。
理想と現実はかけ離れすぎていた。
だから僕は、夢など見ずにひたすら親に言われたことを淡々とこなしてきた。
それが一番楽で、将来について考えることがなければ僕は夢を忘れることができると思った。
「ーーあのっ」
ふいに背後から声がした。
振り向くと、そこには同じクラスの岩倉水帆さんがいた。
彼女とは初めて同じクラスになった。マンモス校であるこの学校は、一学年七クラスもある。だから当然知らない人がいて当たり前だ。
目立つタイプではないけれど地味ではなく、その場にいるだけで存在感がある。色白で、一度も染めたことがないのか痛んでいない髪の毛はキューティクルが光っていた。
何かを自慢するような派手さはないけれど、一言で言うなら綺麗ーーだろうか。
そんな彼女とは、クラスメイトなのにほとんど会話をしたことがない。
「岩倉さん?!」
彼女に声をかけられて動揺した僕は、しゃきんっと勢いよく立ち上がる。
「あ……驚かせちゃって、ごめんね」
「ううん! 全然大丈夫!」
なんてうそ。実はすっごくびっくりした。
だってまさかあの岩倉さんが、自ら声をかけてくれるなんて想像もしていなかったから。
「まだ学校に残ってたんだね」
「う、うん。図書室に返却する本を返してたの」
「へえ、本かぁ。僕は最近読んでないけど、友達から聞いた話だとライトノベルの新作とか置くようになったんだってね。今度僕も本借りてみようかなぁ」
機関銃のようにしゃべり出したら止まらない僕の口。ハッとすると慌てて口を結んだ。