「ハルの周りにはいつもたくさんの人で溢れかえってる。いつもみんなから慕われてる。だから葉っぱがクラスメイトだとしたら、ハルは中心にそびえ立つ木なの。そしてみんなにたーくさん栄養を与えてるんだよ!」
まくし立てられた言葉の半分の意味も理解できなかったのに、その言葉に僕の胸は締めつけられた。
「僕がこの木?」
「そうだよ」
「しかも栄養を与えてる?」
「うん、そう」
「……なんだよそれー、全然意味が分からないし」
ほんとに分からない。
凡人の僕には理解不能だ。
「えー、おかしいなぁ。ハルなら分かってくれると思ったのに」
と、わずかに不満そうに唇を尖らせる。
ほんとうは嬉しかった。わけも分からずに。
けれど、
「僕の絵に意味なんてないよ」
彼女の手からキャンパスを取り返す。
「意味なんてものは見た人が感じるものだから」
「なにそれ?」
「見た人によって絵に対する答えとか感じ方とか違うでしょ? だから人それぞれ、十人いれば十人違う答えが返ってくる」
「そりゃあまあ、そうだけど……」
〝ハルの周りにはいつもたくさんの人で溢れかえってる。いつもみんなから慕われてる。葉っぱがクラスメイトだとしたら、ハルは中心にそびえ立つ木。そしてみんなにたくさんの栄養を与えてる〟
そんなことを言われたって僕の絵に意味はない。ほんとに。
親にだって褒めてもらったことなんかないというのに……
「そんなことみんなに言うのやめてね」
「どうして?」
「それは……」
僕がクラスの中心にいるなんて考えていると思われたらきっと笑われる。
「じゃあ私たちだけの秘密だね」
「……え?」
「それならいいでしょ」
僕自身が中心にいるような存在ではない。
キャンパスでもなければ、色だってない。
僕の世界には色はないのだから。
あるのはただの灰色だけだ。
僕の世界は、ぼんやりともやがかかったままなのに。
「私、この絵好きだなぁ」
水帆の言葉を聞いて僕は、たまらなく泣きたくなった。
それに嘘は一つもなかったんだ。