「ハルが描く絵には命があるね」
「命……?」
「風景をしっかり観察してどんなふうにして生きていたのか、ちゃんとリアルに色が付くの。まるで絵が生きているみたいに」
「……え?」
僕の絵が、生きているみたい?
それって一体どういう……
「絵に奥行きがあるっていうのかなぁ」
「奥行き……?」
「うん。それに一つ一つの色にも意味があるように思えるんだぁ」
僕のキャンパスに目を落として、口元を緩めると、
「この絵を見ているとね、すごく温かい気持ちになるの」
と嬉しそうに弾んだ声色で告げた。
……温かい気持ち。
そんなこと言われたの初めてで僕は何も言えなかった。
「なんかこの絵、ハルみたいだね」
不意をつくように告げられて困惑した僕は、え、と声を漏らす。
「だってハルの世界はたくさんの色で溢れてるんだもん」
「……たくさんの色?」
「青、赤、黄色、緑、オレンジ。たくさんの色で囲まれてる。まるでたくさんの人で囲まれてるみたい」
……たくさんの色? たくさんの人?
「それはきっと、ハルが人を惹きつける特別な色を持っているからだよね」
水帆は僕に言った。
なんの躊躇いもなく、まっすぐ僕を見つめて。
嬉しい。照れくさい。そんな感情を飲み込んで。
「……なに言ってるの。僕は人を惹きつける色なんて持ってないよ」
「ううん、そんなことないよ!」
矢継ぎ早に現れた言葉は、僕の言葉に被さった。
「どうしてそこまで言い切れるの?」
まだ話すようになってそんなに日は経っていないのに、どうして……
「それは、この絵が答えを教えてくれたの」
「この絵が…?」
答えを教えてくれた?
ちゃんと日本語でしゃべってくれてるはずなのに……いや、ダメだ。全然分からない。
「どういうこと?」
僕が聞き返すと、えーっとだから、とまたキャンパスに目を落として。
「絵を描くと無意識にその人の感情とか思いが色に載るでしょ? この木の葉っぱだってただの緑じゃなくて全部少しずつ色違うし、この日差しの明るさだってこの木の幹だって…」
「そりゃあ、まあ…」
よーく観察してみると、物や風景や形を成している物体は一色でできているわけではない。
「その一つ一つの色がね、すごく優しいの。
だからハルみたいってこと」