キャンパスがぱたぱたと風によってめくれそうになる音も、鉛筆の感触も、匂いも、全てが僕の身体の中に流れ込んでくる。

 ……ああ、この感じ懐かしい。

「絵を描くとか久しぶりだなぁ……」

 一人空を見上げながらポツリと声を漏らす。

 青々とした空には雲なんか一つも見えなかった。

 こういう空気の中だと意欲が湧く。
それを僕は、ここにいる誰よりも知っていた。

 今は、美術の時間。学校の時間。
だから、親に干渉なんてされない。

 今だけは、僕の自由にできるーー


 ちら、と水帆がいる方へ視線を向けた。

 時折、楽しそうにおしゃべりを弾ませながら、絵を描く姿が見えた。

 〝絵見せてー!〟

 今までの僕なら、そんなふうに声かけてただろうなぁ。

 後ろにいる水帆が気になったけれど、今は授業に集中しよう。絵に集中しよう。

 今は、誰かに何かを言われる心配もない。

 僕は真っ白なキャンパスを見つめて心がわくわくと踊ったんだ。

 なぜなら僕は、絵を描くのが好きだからーー。