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久しぶりの美術の授業中、中庭へやって来た。
「今日は絵をピンポイントに集中して描いてください。例えば、花壇なら花壇。空なら空。一つのものをよーく見ることによってしっかりとその物や風景の形を描くことができます」
絵が描けた人から絵の具で塗ってくださいね、と続けた美術の先生が、ではみなさん好きなところへ、とパンパンッと手を叩くとクラスメイトは各々バラける。
「ハルはどーすんの」
仲の良い友人に声をかけられる。
「んー、まだ決まってない」
「そっかぁ! 俺たち向こうで描くけどハルも来るか?」
「なに描くか決まったの?」
「いーや、まだ。でも向こう行けば何か描きたいもの見つかるだろ」
つまりはまだ何を描くか決まってないらしい。
僕も何か描くものが決まっていたわけじゃないけれど、彼の誘いを断った。
そうしたら、そっか、じゃあまたあとでな、と颯爽と去ってゆく。
さて、僕はどうしよう。ここにずっと立っていても何も始まらない。時間だけが過ぎてゆく。
あたりを見渡すと、ある程度の人が描くポジションが決まっているようだった。
女の子に人気なのは花壇だった。
そういえば水帆も花好きだって言ってたよなぁ……
いくつかある花壇へと目を向ければ、友達と笑い合いながらすでにキャンパスを開いていた彼女の姿が視界に映り込む。
どうやら水帆も描く位置を決めたみたいだ。
「みずーー…」
すんでのところで口をつぐんだ。
今までの僕なら、なんの躊躇いもなくきっと声をかけていた。それはもう当たり前のように。産まれたときから息の吸い方が分かっていたように。
けれど、一昨日の一件から僕は少しだけ声をかけるのを躊躇っていた。
もちろんそれは僕の一方的なもので、彼女が僕のことを気にする素振りなんかないけれど。
だから僕は、彼女とは反対側の芝生の上に座り、キャンパスを開いた。
周りには誰もいない。
風が吹くと、木々が揺れて草花も踊る。
風にのって流れてくる匂いは、秋と冬の匂いが混じったような感じだ。
時折、小鳥のさえずりが鳴り響いて、目を閉じれば森林の中にでもいそうな錯覚を起こしてしまうくらい心地よかった。