非常階段を降りて屋上の真下にやって来たけれど、紙ヒコーキの姿はどこにもなかった。

「おっかしいなー。このあたりに落ちてると思ったんだけど」

 放課後、十六時過ぎ。グラウンドから野球部とサッカー部の生徒の声が聞こえて、音楽室からはたくさんのメロディーが流れてくる。

「みんな青春してるなぁ」

 ポツリと漏れる言葉は風によってさらりと流される。

 僕だって部活に入りたかった。入りたい部活があった。
けれど、それを親に相談することもできないまま過ごすこと二年目。

 そんな僕は学校が終わればいち早く家に帰って勉強をしなければならないのだ。もちろんそれを僕が望んだことではない。親がそう望んだのだ。

 父親は医者で、母親が看護師として働いている。医療の最先端で日々血の滲むような努力をして、人々を助ける。
 一日何十人と運ばれて来る。一秒さえも無駄にはできない。一秒という時間で、助かる命もあるのだ。

 休日で家にいても携帯を欠かさず持っていたり、患者の容体が急変すると深夜に家を飛び出すこともある。

 いつも家にいるのは僕だけで、母親も父親も仕事で忙しくて帰ってくるのは一日置きか深夜を過ぎる。
 そういう家系に生まれ育った僕に、両親は医者を目指せと言う。

 僕が通っているこの学校はわりと偏差値は高い方だ。
 医者を目指す人たちがこの学校を経由して、大学へ進むらしい。どうやら僕の両親がそうだったみたいだ。

 だから、嫌いな勉強を中学生のときから強いられていた。
 好きでもない問題集を山ほど渡されて、それを毎日毎日嫌でもしなきゃならない。
しなければ、家庭教師をつけたり塾に行かせると言われていた。

 ーーでも、そんなのはごめんだ。
だからこそ、嫌でも僕は家に帰って問題集に向かうのだ。