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「あのさぁ、夏樹は進路ってもう決めた?」
体育の授業中、先生にバレないようにうまくサボっているときそんなことを友人の夏樹に尋ねると、「は?」と意味不明だとでも言いたげな表情をされる。
「なに、急に。ハル、そんなこと聞く人じゃなかったじゃん」
「あ、えーっと……」
僕が慣れないことをするから、友人にかなり怪しがられたみたいだ。
「みんなどうなのかなぁってちょっと気になっちゃって」
なんとかうまく誤魔化すと、ふーん、と言ってそれ以上は突っ込まれなかった。
「周りの人が今、どれくらい進路決まってるとか分からないけど、俺は今迷ってるところかなー」
「……迷ってるの?」
「そうだけど」
「…え、あの夏樹が?」
驚きすぎて二度見をすると、どういう意味だよ、と肩を押される。
「いや、だって、何でも卒なくこなして慌てたところなんか見たことがない、あの夏樹がだよ?」
言葉をまくし立てると、なんだよそれ、と突っ込まれて、
「ふつーに悩むでしょ。だって自分の将来のことなんだし」
「悩んでるって進学か就職かってこと?」
「そうそう。どっちにしても今やりたいことなんて見つかってないんだよなー」
まさかあの夏樹が。
「なんか意外……」
悩んでる顔なんて見せなかったから分からなかっただけだろうけれど。
「何かやりたいことはないの?」
「んー、それがさ特にないんだよなぁ」
「そっかぁ……」
二人してぼーっとグラウンドを眺めていると、「おーいそっち行ったぞー!」とサッカーボールを追いかける男子はまるで青春真っ只中。
「…あっ! サッカーは? 夏樹、クラスマッチで得意って言ってたじゃん!」
思い出したように夏樹に投げかけると、あー、と声を漏らしたあと、
「そりゃ言ってたけどプロになりたいって思うほどじゃないし、そこまでは」
あー、残念。二度目の「そっかぁー」を漏らすと、グラウンドの中央で元気に走り回っているクラスメイトを見つめた。
みんな一限目から元気だなぁ……僕なんてまだ頭の中眠っているみたいだよ。
ていうか進路のことなんて悩んでないみたい。
「ハルは?」
ふいをつかれたように尋ねられるから、へっ、と素っ頓狂な声を漏らした。首がもげそうなほど隣に勢いよく向き直る。