「僕、いつも通りだから大丈夫だよ!」
「うーん……でも無理してるみたい」
「ほんとにそんなことないって!」

 心配かけないように笑ってみせる。

 けれど、

 〝どうせ無駄なんだから〟

 その言葉が脳裏に浮かんで僕の心を不安定にさせる。

 さっきから頭を離れない。こびりついて消えてくれない。
 今までなら落ち込んでもすぐに立ち直っていたのに、よっぽどダメージが大きかったみたいだ。

「ハル、ほんとに大丈夫?」
「うん、ほんとだよ」

 最後の問いかけに僕が答えると、そっか、と無理して笑っているように見えた。

「じゃあ、最後に一つだけ。せめて誰か話せる人に相談してね」
「え、だから何もないって、」
「うん。でも、念のため…ね」

 心なしか声色が下がっているように聞こえて、隣を向いて見れば水帆の表情は曇り空。

 僕の心配でもしてくれてるんだろうか。

 ーーなんで、きみが僕の変化に気づくんだろう。誰にも気づかれたことないのに。見抜かれたことないのに。

 厳重にカギをしていたはずなのに、それが緩むと、

「ちょっと朝に嫌なことがあっただけ」

 彼女の表情を見ていたらこれ以上心配をかけてはいけない気がして、親と進路の話でわだかまりがある、を最大限崩した言葉を紡ぐ。

「え、嫌なこと……?」

 そうしたら、逸れていた視線がまた僕へと戻って来る。

「うん……」

 両親でさえも僕の話なんかちっとも聞いてくれないのに、彼女は真っ先に僕へ尋ねた。
 なんの躊躇いもなく、まっすぐに。

 それが少しだけ嬉しくて、悲しくて、気が緩んだ僕はたまらず口を開きかける。

 〝どうせ無駄なんだから〟

 だが、すんでのところで母さんの声が頭の中でリピートされて口を結んだ。

「ハル……?」

 僕が突然黙るから、彼女は戸惑った表情と心配そうな声色で僕の名前を呼ぶ。

「何のことだったか忘れちゃった!」

 その声からは優しさが伝わってきて、水帆に心配をかけちゃダメだ。背負わせちゃダメだ。そう思った僕は、のどまで出かかった言葉をごくりと飲み込んで溝落ちに落とし込む。