なぜならば、さっきのもやもやがまだお腹の真ん中で渦巻いていて、彼女に八つ当たりをしてしまう可能性があるからだ。
「水帆はおにぎりの具で何が好き?」
沈黙が続いたらと思うと気が気じゃなくて、彼女へと尋ねたあと、
「僕は明太子マヨかなぁ……あっ、でもおかかも外せないけど!」
「えー、うーん、私は梅干しかなぁ」
「梅干しってすっぱくない? 僕、子どもの頃に食べたんだけど、すっぱすぎてあれ以来食べれない」
「そこがおいしいんじゃん」
なんて他愛もない話をする傍らで、心の中はどんよりとした分厚い雲で覆われている。
「水帆、おばあちゃんみたい」
冗談めいたことを告げると、じゃあハルはおじいちゃんだね、と笑った。
楽しい、はずなのに心の中はもやもやしていて、僕は今、水帆のことを心から真っ直ぐ見ることができそうになかった。
昨日は父さんに会って今日は母さんって……タイミングが悪すぎる。どこまで僕を追い詰めれば気が済むんだよ。
神様は僕の味方になってくれないみたいだ。
「ハル、今日体調良いの?」
突拍子もなくそんなことを告げられて、おにぎりを食べる手が止まった。
「え、体調……?」
ただならぬ雰囲気を感じたのか、水帆が僕へ尋ねた。
「全然いいけど、どうしたの?」
けれど、言えるはずなかった。
「あ、いやなんかね……すごく顔色が悪いっていうか無理してるみたいな感じがして…」
「顔色が悪いのは元々じゃないかなぁ」
「ううん! いつもハルの顔見てるけど全然そんなことないよ!」
いつも僕の顔見てるって、なんか勘違いしそう。
「あっ、じゃあ夜更かしのせいとか!」
なかなか納得してくれない水帆に思い出したように手を叩いて言うと、
「ハル、夜更かししたの?」
「うん多分」
「多分? …じゃあ何時に寝たの?」
「何時に寝たかなぁ。覚えてないや」
まさかそこまで突っ込まれるとは想定外。
「じゃあ他に何か原因があるとか?」
「何もないと思うけどなぁ」
「でもすごく顔色が悪いし、いつものハルじゃないみたい」
僕は今、どんな顔をしているんだろう。トイレに寄って鏡でも見てくればよかったと後悔の嵐。