先生に、全部お見通しされていた。
面倒くさいことから逃げて、楽な方へ逃げる。
そうすれば悩むことだってないし、考える時間もいらない。
「な、なんですかそれ! 僕、べつに投げやりとかじゃないですよ」
第一、もうこれ以上進路のことで悩むのはごめんだ。
「ほんとに……ほんとに自分で考えましたから」
それなのに誰かに僕の気持ちを気づいてほしい。気づいてほしくない。そんな二つの感情が交錯していた。
「……そうだよな」ふいに頭をかきながら、苦笑いを浮かべた先生は。
「いや、悪い。今のは忘れてくれ」
そう言うと、おかしなこと言っちゃったなぁ、と続けて進路表を机へと置いた。
ああでもよかった。これでもう悩まなくてすむ。親に何かを言われる心配もない。
「でも、いつでも変更はできるからな」
ホッと安堵していた矢先そんなことを告げられるから、え、と声が漏れる。
「提出したからといって決定ってわけじゃないんだ。それに自分の進路のことだ。いつでも変更はできるから、そのときは遠慮なく言ってくれ」
……ああ、間違いない。これは先生の優しさだ。
じんわりと目頭が熱くなる。
「ありがとう、ございます」
でも、僕がその優しさに手を伸ばすことはきっとないだろう。
両親を押し切ってまで自分のやりたいことをする勇気も自信も今の僕にはないのだから。