◇
いつものように学校へ向かおうと、身支度を整えてリビングへ向かった。
「あら、起きてたの」
すると、今一番会いたくなかった人物に出会ってしまう。
神様はなんて不公平なんだろう。
「…おはよう」
僕の母親だーーは、僕から目を逸らし、ええ、とだけ返事をするとグラスについである水を半分ほど飲んだ。
大方、夜中に帰って来て寝たけれど朝方目が覚めて水を飲みに来たんだろう、と僕には予想できた。
「そういえばこの時期に進路を決めるんじゃなかったかしら」
なんの脈絡もなく告げられて、反応が追いつかなかった僕は、え、と困惑した声を漏らしながら固まった。
「え、って。あなたもう高校二年でしょ。それでどうなの?」
「…あ、うん、まあ…」
「まあってどっちなのよ。はっきりしないわね」
僕の顔を見てため息一つついたあと、
「進路表はもらったの?」
「…えっと、うん。一応…」
「もう提出はしてあるんでしょ」
当然のように告げられる。
もらってすぐ提出したけど返された、とは絶対に言えなくて、「あー、えっと…」と困った僕は言葉に詰まる。
「なに、あなた。もしかしてまだ提出できてないの?」
すると、母さんの表情が曇ったのが分かった。
「……まったく。まだ提出できてないなんて。あなたの進路なんて、もうとっくに決まってるじゃない」
僕への落胆する声が落ちたあと、当然のように突きつけられた答え。
「あー…うん、そうだね」
それを聞いた僕は、力なく笑う。
僕に拒否権なんかないからだ。
そんな僕に追い討ちをかけるように。
「それとも進路に対して不満でもあるの?」
どんどん母さんの声色が曇って、それにリンクするように表情までもが険しくなる。
「いや、べつに不満があるわけじゃ……」
「じゃあどうして提出できてないのよ」
「だから、それは……」
言い訳に困っていると。