「ーーなんて、な」
どうせこれ結局は提出しなきゃいけないんだ。飛ばしてどこへ落ちたのか分からなくなって最悪失くしでもすれば担任のとこへ行って適当に言い訳をして新しいプリントをもらわなきゃいけなくなる。それこそ面倒だ。
僕はなるべく無駄な労力は使わないで、楽しく過ごすことができればそれでいい。それ以上は望んではいけない。
どうせ〝浜野晴海〟という人生からは逃れることができないのだから。
ーーぶわっ
「うわっ……!」
瞬間、強い風がうしろから吹きつけた。驚いた僕は咄嗟に目を閉じる。次に目を開けたときには僕の手はカラだった。
少し離れた空中に紙ヒコーキが風に流されている姿が視界に映り込む。
かかとをぐうっとあげて手を伸ばすけれど、かすることもできないままそれは旋回しながらゆっくりゆっくりと下降していく。
「あーあー……」
僕が絶句している間にも旋回をしていく。
また風が吹いて、紙ヒコーキのスピードをあげる。
僕はどうすることもできずに心地良さそうに風に流されるそれを見つめていた。
ーーでも、なぜだろう。
プリント一枚は一グラムにも満たない軽いものなのに、僕の手から離れたそれのおかげで不思議と心は軽くて。
……すごく気が楽だ。
もしかしたら〝進路表〟が僕にとっては重荷になっていたのかもしれない。
だけれど、それを放置したままにするわけにもいかなくて屋上のアスファルトを蹴り上げて鉄格子のドアをくぐりぬけた。