「ほんとにおいしいかった。ハル、ありがとう」
「ううん、こちらこそ」

 ありがとう、を言うのはむしろ僕の方。

 一緒に食べてくれるだけで、それだけで心が満たされた。

 僕は、もう一つのあんまんに手をつける。
どうせ家に帰っても誰もいないんだし、ここで食べ終わった方がおいしく食べられる気がした。

「うーん、おいしい!」

 甘い餡子の味が口いっぱいに広がった。

 あのまま家にいなくてよかった。
そのおかげで水帆に会えたのだから。
 コンビニに出かけていなかったと思うと、少しぞっとした。

 僕は、今日運がついているみたいだ。

 時折吹く風がひんやりと身体にまとって、体温を奪っていく。

「あのさ、ハル……」
「ん?」

 水帆に視線を移す。

「何かあったの?」

 なんの脈絡もなく告げられて、え、と困惑した声を漏らす僕は、二口目を食べるのをやめて水帆の方へ視線を向けた。

「何か、って……?」

 心を見透かされたのだろうか、と焦った僕は、彼女をまっすぐ見れなかった。

「あ、えっとね、気のせいかもしれないんだけど……さっき声かける前、元気がなかったような気がしたから……」

 彼女の言うさっき、とは一体いつのことを指しているのだろうか。

 偶然会ったとき? それとも前? コンビニで買い物していたとき? 全部当てはまる気がしてならない。

「何かあったのかなぁと思って……」

 心が少しだけざわざわして落ち着かない。

「僕、元気ないように見えた?」
「…うん、私はそう見えた」

 理由は、簡単だった。
さっき父親とすれ違ったから、だ。

 けれど、こんなことを言ったって何の特にはならない。言ったとしても水帆を困らせるだけだ。
 それに人間触れられたくないものだってあって当たり前だ。

 負の要素を全部心の奥深くに押し込めると。

「それ水帆の気のせいじゃないかなぁ! だって僕、すっごく元気だよ!」

 わざと明るく振る舞って見せた。

「ほんとに……?」
「ほんとほんと! 水帆ってば心配性だなぁ」

 親のことなんて知られたくない。
知ったら哀れだと思われるかもしれないし、同情だってされるかもしれない。
 だから、夏樹にだって言ったことはない。