「でしょ! おいしいよね!」
その表情にホッと安堵した僕は、よかったー、と続けた。
「……え、どうしたの?」
「あ、いやー。半分渡したのはよかったんだけど、水帆が肉まん嫌いだったらどうしようって思って」
しかも、一つのものを半分にだったし。
「もしかして心配してくれたの?」
「そりゃ、だって、口に合わなかったらどうしようって!」
まあ、肉まんを嫌いな人なんて滅多にいないだろうけれど、そう思って肉まんをぱくりと頬張っていると、そっか、と笑った水帆。
「初めて食べたけどおいしいね」
その言葉を聞いて、えっ、と驚いた僕は、文字通り水帆を二度見をする。
「初めて食べたの?!」
「あ、えっと、そういうことじゃなくて…普段はあんまんの方だからって意味で…」
「ああ、なるほど! …あっ! あんまんも買ってるけど、こっちも食べる?」
袋から取り出そうとしていると、ううんいい! と止められる。
「それ、ハルの夜ご飯なんでしょ。私がもらっちゃったらハルの分なくなっちゃう!」
「え、ご飯……?」
「…? だってさっきハルが夜ご飯買いに来たって言ってたから」
あー、そっか。そういえば言い訳でそんなこと言ってたっけ。
「でも、肉まんだけで足りるの?」
実際のところ足りるか足りないかで言えば、もちろん足りないと思う。
「夜ご飯前の前菜ってところかなぁ」
「え? 前菜? …じゃあお家の方が用意してくれてるんだ」
きっとほんとのことを言えば水帆は心配するだろうから。
「うん、そうだよ」
僕は嘘をついたんだ。
「それならよかった」
と、水帆は微笑んだ。
一緒にご飯を食べる相手がいたらどれだけよかったことだろう。
家に帰ったって誰もいないし、温かいご飯だってどこにもない。
ただ無駄に広いだけの家の中に僕だけ一人、孤独で夜を過ごしている。
けれど、誰もそんなこと知らない。
僕が誰にも話していないからだ。
「夜ご飯って一人で食べるよりも二人で食べた方がおいしいね!」
久しぶりに誰かと一緒に食べたから、その反動で感情が弾け飛ぶ。
僕の言葉に、そうだね、と同調して残りの一口を食べ終えた水帆。
おいしそうに頬がもぐもぐと動くから、まるでリスのようで可愛く見えた。