「ーーあれ、ハル?」

 ふいに背後から聞き覚えのある声と僕の名前が呼ばれて立ち止まる。まさか、いやでもそんなはずは……そう思いながら恐る恐る振り向いた。

「水帆?!」

 すると、僕の前に現れたのは彼女だった。

「こんな時間にどうしたの?」
「それはこっちのセリフだよ。ハルこそどうしたの?」

 質問に質問で返された僕。答えなんか用意していなくて、

「あー、えっとそれは……」

 どうしよう。なんて言い訳しよう。困ったものだ。

「もしかして買い物してたの?」

 僕が答える前に告げられて、

「あ、ああっ! うん! そう! 夜ご飯買いに来たんだ!」

 コンビニ袋をこれでもかと掲げて見せた。

 そしたら、そっかぁ、と納得する。

「水帆こそどうしたの?」
「私はアイス買った帰りだよ」
「え、アイス……? こんな寒いのに食べるの?」
「うん、おいしいよ。ほんとはね、冬にこたつで食べるアイスが一番おいしいんだけどね!」

 僕がコンビニで買った肉まんとは対照的な食べ物だ。
 こんな寒空の下、わざわざアイスを買いに来たとかなんて物好きだ。

「へえ、それは知らなかったなぁ。僕、普段アイスとかお菓子とかあんまり食べないから知らなかった」
「え、そうなの?」
「まぁね」

 親に隠れてお菓子食べたいなんてこと思ったことあったけれど、毎日一人で過ごす夜は思ったほど時間が過ぎるのが遅くて。
 しかも、ほぼ毎日のように問題集を解かなければならなかったから、食べる気にもなれなかった。

「なんか意外だね」
「え、意外?」
「だってハル、一番にお菓子に飛びつきそうなタイプだから」

 一体水帆から僕はどんなふうに見えてるんだろう。

「残念ながらハズレだよ」

 笑って僕が答えると、そっかぁ、と水帆も笑った。
 二人して並んで帰り道を歩く。
あともう少ししたら分かれ道がやって来る。

 …ほんとは今、一人になりたくない。

 そんな感情が心に生まれる。

「あのさ、水帆」

 コンビニ袋を持つ手にぎゅっと力が加わる。
 心臓はどきどきと全力疾走。

「今から少し時間ある?」

「え、今から……?」
「うん」

 尋ねてみたけれど、きっと水帆にだって予定があるに決まってる。
 やっぱり今のなし、そう言おうと口を開いた瞬間。

「大丈夫だよ!」

 矢継ぎ早に現れた言葉。

「……大丈夫なの?」
「うん」
「ほんとに?」
「うん、ほんとに」

 視線がぶつかり合ったあと、ひゅう〜と風が背後から吹いて来る。
 まるでそれが僕の背中を押してくれているようで。

「じゃあ、少しだけ水帆の時間僕がもらうね」

 そのときの僕は、家に置いてある問題集のことなんて頭の中からすっかりすり抜けていたんだ。