無駄に広いだけの家の中は寒々としていて、あっという間に僕の心を凍りつかせる。
久しぶりに会った父さんは、学校のことなんて何一つ聞かない。
それは、僕に何も興味がないのかもしれない。
滅多に家に帰って来ない両親は、僕がこんなふうに一人で過ごすことだって何も思わない。
むしろ当然のようだとさえ感じているだろう。
両親が必要としているのは、素直に従うだけの僕だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
そんな僕たち家族には、家族らしさがない。
家族って一体何なんだろう。
「僕の存在って一体何なんだろう……」
浮かんだ疑問は、消化されることなくその場にとどまった。
どうして僕は産まれてきてしまったんだろう。何のために産まれたんだろう。
産まれて来なければこんなに苦しむことだってなかったのに。
あーあ…
「せっかく学校では楽しかったのに」
水帆との記憶も、思い出も、この家に帰って来ると色褪せる。
どんどんどんどん上書きされて、最後は灰色に覆われる。
やっぱり僕の世界に色はない。
この家だってそうだ。ただ見た目は大きいだけで、中身は何も入ってない空っぽだ。
虚しくて、切なくて、温かい思い出なんか一つもない。
思い出すようなことなんかないんだ。
「あー、もうっ、やめやめ! こんなこと考えたってどうせ無駄だ」
自分に言い聞かせるように声をあげると、半分ほど減ったペットボトルをばちんっと机の上に置いた。
誰にも聞こえない届かない悲痛な叫びは、家の中でもくもくと黒い渦を巻いていく。
「……お金だってこんなにあったって使わないし」
リビングのテーブルの上に置かれていた千円札数枚。
毎月おこづかいだってもらってる上に、親が家にいなくて料理を作れない日は毎日のように置かれている。
むしろそれは逆効果で、どんどん僕の心を疲弊させていくには容易かった。
「やめやめ! とにかく外に行こう!」
なかば投げやりに独り言を呟くと、適当な私服に着替えて財布とスマホだけをポケットにしのばせて家を出た。