「いやっ、それ嘘だから!!」
慌てたように言うと、知ってる、とふふふっと口元を緩めた水帆。
いつもは僕がからかう側だったのに立場が好転しているみたいだ。
「ハルが慌てる姿、久しぶりに見た」
「え、そう?」
僕、水帆の前ではいつも通りのはずなのに。
「うん。だっていつもハル、余裕たっぷりなんだもん。だからたまには焦らせてみたかった」
「なんだよ、もうー……」
「ふふふっ」
水帆ってば意外とサディストなのか?
……まあでも、いいや。水帆が楽しそうならそれで。
彼女につられて笑った僕。
「僕さぁ、最近…ていうかもうずっと、これにハマってるんだよねぇ」
昨日の夜だって聴いた。聴きながら問題集解いた。
まあでも、あんまり進まなかったけれど。
「え、ハルも?」
「……え?」
ーー〝も〟?
「私もね、この曲すごく好きなの。特にね、歌詞がすっごくいいよね!」
身を乗り出すように僕の方を向いて力説する水帆。
彼女の感情がここまで表に出る姿を見たのは初めてで圧倒される。
「……水帆も好きなの?」
素っ頓狂な声で名前を呼ぶと、うん、と元気に頷いた。
「未来に繋がる今を生きるみたいな歌詞のバラードなんだけどね、こう……胸に刺さる感じがするっていうか、すごく共感できる部分もあるし」
「そうそう! そうなんだよ! 歌詞の言葉のチョイスが僕ポイントっていうか、ぎゅーんと心に刺さるんだよね!」
水帆の感情に感化されて僕までも熱量が高くなる。
「ぎゅーん……」
すると、途端に熱量が落ちたようにポカンとする彼女は僕を見て瞬きを繰り返す。