「そ、そんなこと、ないよ……」

 なんて水帆は謙遜するけれど、あのメロディーを聞けば百人中百人がみんな口を揃えて言うだろう。

 ーー〝上手〟だ、と。

「僕、音楽だけは覚えるの難しくってさぁ。音符が読めないから小学生の頃はすごく苦労したよ」
「そうなの? ハルならすぐにでも覚えちゃいそうなのに……」
「いやぁもう全然。楽器全般アウト。それにさ、ピアノって両手で弾くでしょ? 小学生のときピアノをみんなの前で演奏する時間とかあったんだけど頭の中パンクしちゃうよね、意味不明」

 僕は元々の出来がそんなに良くないから、楽器は何度練習しても覚えることができない。

「ハルでも意味不明なことなんてあるんだね」
「そりゃあもうたくさんあるよ! 水帆、僕のこと買い被りすぎだからね」

 みんな頭良いって言うけど、それは僕なりの努力の結晶なんだ。

「えー、そうかなぁ……」
「そうそう! 僕は平凡でふつーの男子高校生だからね!」

 もしも僕が〝浜野晴海〟として産まれていなければ、きっとこんな人生を送ることなんてなかったのかもしれない。勉強なんかしなくてもよかったかもしれない。
 高校生らしい、十七歳らしい、平凡でふつーの青春を過ごせていたと思う。

 そう思うと、浜野晴海として産まれたのは間違いなんじゃないかと、そんなふうに思ってしまうんだ。


 ふいに、ポケットにしまっていたスマホから着信音が流れる。

「うわっ、やばい! マナーモードにしてなかった!」

 慌ててスマホを取り出して音楽を切る。

 いくら校則が緩いにしても授業中に音楽が鳴ればスマホを没収される。

 おかしいなぁ。今朝、切ってきたはずなのに……

「その歌、最近流行ってる曲だよね」

 すると、今のメロディーを聴いた彼女が答える。

「正解! よく知ってるね!」
「だって最近よくCMとかで耳にするもん」
「そうなんだよ! でも、まさか水帆も知ってるなんて思わなかったなぁ」
「え、なんで? 若者に人気だから私だって聴いてるよ」

 おかしそうに答えたあと、

「それを言うならハルの方が意外だよ」
「なんで?」
「だってハル、中身が六〇歳かもしれないんでしょ?」
「……え」

 あれ、それって一昨日言ったやつじゃん。
もしかして水帆、信じてるの?!