◇

 ある日の夜、いつものように一人でご飯を食べたあと、やりたくもない問題集を仕方なく進めていく。
 けれど、いつものように今日もなかなか進まない。

「あー、もうっ……」

 シャープペンを机の上に放り投げると、両手をぐーっと天井へ伸ばした。
 問題集と向き合っていると肩が凝って仕方ない。

 やりたくもない勉強を毎日毎日うんざりするほどするなんて。

「一体誰のために勉強してるんだよ」

 天井に向かって自問自答してみるが、答えなんて出てこなくて問いだけが振ってくる。

 僕は勉強なんてしたくない。したくもない勉強を強要される。
 もう両親に対する不満しかなかった。

 そのくせ自分たちは仕事で忙しいからと家を蔑ろにしている。
 いつの頃からだったか、この生活が僕にとっては当たり前になって日常と化していた。

 けれど、たまにふと思うんだ。
どうして僕は一人なんだろうとか、孤独感や虚無感に襲われる。

 どうすることのできない苛立ちが僕を襲う。

 それでも明日はやって来て、終わりのない日々を過ごす。
 いつになればこの生活に終止符を打てるのか。

「あーあ。ほんっと息がつまる」

 広い空間の中、一人ぽつんと取り残される。まるで鳥籠の中の小鳥のように。
 逃げたくても逃げるすべを持っていない。
なぜならば僕には羽根がないから。

 飛べない鳥は、ただの鳥だ。
そこから一歩も動けぬまま、一生終えてゆくのだろうか。

「あー、もうっやめやめ!」

 嫌なこと考えると、もやもやしてくる。

 こういうときは、

「気持ちを切り替えるしかないなぁ……」

 サイドテーブルに置きっぱなしにしてあったイヤホンをスマホに差し込んで耳にはめ込むと、画面を操作する。

 お小遣いで余ったお金で音楽を購入している。親には内緒だ。
 どうせ言ってしまったら没収されてしまうかもしれないからだ。

 そして今、一番お気に入りのアーティストをタップした。

 しばらくして冒頭のメロディーが流れ出すと、外の世界から切り離されて独立した世界がやって来る。