日直の僕は日誌を書くため当然放課後も残るはめになった。
 けれど、時間が気になって仕方ない。
 いくら両親が仕事で遅いからといっても予定時刻を過ぎていたら不安にもなる。

「おーい、そっちいったぞー」

 グラウンドから聞こえてくる部活生の声は、元気があって羨ましい。
 野球部、サッカー部の覇気のある声が次々と聞こえてくる。

「つまーんないっ」

 それに引き換え僕は今、一人だ。
 クラスメイトがいるときは、たくさんの人に囲まれて寂しいなんて思ったこともなかった。

 それなのに今の僕は、どうしてこんなに虚しさでいっぱいなんだろう。

「ーーあれ、ハルまだいたの?」

 そんな僕のことなどつゆ知らず、突然ドアからひょっこりと顔を出したのは、水帆だった。

「えっ、水帆こそどうして……」
「図書室に寄ってたんだ。で、その帰り道、ハルの姿が窓から見えたの。あー、そういえば日直だったっけって思い出して」

 気がつけば教室に寄ってた、と彼女は言って笑った。

 そんな些細なことで僕を思い出してくれるのが嬉しくなった僕は、さっきまで曇っていた心が一気に晴れるのを実感する。

「そうなんだよ、日直! だから今、日誌も必死に書いてるんだぁ」

 そう言って広げた日誌には空欄が多くて、それを覗き込んだ水帆は、「わ、真っ白!」と笑った。
 そして、全然進んでないじゃん、と続けた。

「自分で言うのもなんだけど、ほんとに真っ白だよね。HRが終わって十五分も過ぎてるのに全然終わらなくてさ。でも、なかなか思い出せないんだよね……そんな僕ってもう歳かなぁ」
「えー、まだ十七歳じゃないの?」
「そう見えて実は六〇のおじいちゃんかもよ」
「ハルなら可能性ありそうだね」

 なんて日誌そっちのけでおしゃべりをしながらお互い笑った。
 あー、楽しくてしかたない。できればこのまま楽しい時間が続けばいいのに。いや、いっそのこと時計の針が止まればいい。そうしたら〝今〟の時間は終わらない。

 ……でも、水帆はもう帰ってしまう。

 その証拠にかばんを肩にかけたままだった。