そのせいで彼女の言葉はかき消される。
声のした方へ視線を向けると、窓から顔を出すクラスメイト数人の姿が見えた。
「……みんな何してるの?」
あーもうっ。せっかく今、いい雰囲気だったのに。
それに何か言いかけてたのに、タイミング失っちゃったじゃん。
「ちゃんと花壇の水やりしてるんだな! 感心! 感心!」
「そりゃあね、みんなにあんなこと言われちゃあ仕方ないさ」
わざと不満をついてみるが、
「それでこそハルだ!」
そう告げると、はははっと笑われた。
みんな呑気に僕のことを見にでも来たのだろうか。
「……このっ、みんなの裏切り者ー!!」
二階に向かってホースの先を空に向けるけれど、水の勢いが弱いせいで全く二階まで届かない。
「なにやってんだよ、ハル」
「水の威力全然足りないぞー」
それをクラスメイトはおかしそうに笑った。
せっかく二人の世界に浸ってたのにこれじゃあ台無しだ、そう思ってホースの先を摘んで水の威力を強めたんだ。
けれど全然ビクともしなくて、ひとしきり笑ったあと、早く教室来いよー、と言い残すと教室の中へ消えた。
あー、もうっ、なんなんだよっ! 邪魔するだけ邪魔してあとはぽいってか! 僕は消耗品じゃないんだぞ!
「ーーあっ!」
ふいに声をあげた水帆が急に、ねえねえ、と僕の袖を引っ張るから、「ぅえっ?!」と素っ頓狂な声が漏れる。
「見て、ハル!」
「……え?」
「虹! 虹だよ!」
興奮気味の水帆の声と指をさす方へ視線を向けると、ぼんやりと虹がかかって見えた。
どうやらクラスメイトに水をかけようと思って掲げたホースのおかげで虹ができたみたいだ。
「…あっ、ほんとだ!」
だが僕は、あることに気を取られて虹の存在に気づくことに遅れる。
「もっと大きかったらよかったけど、でもすごい綺麗だね」
「う、うん、そーだねー」
……今、確かに〝ハル〟って呼んでくれたよね? 僕の聞き間違いとかじゃないよね?
うわー、やばいやばい。
「今日はなんていい日なんだー!!」
我慢できずに大声で叫ぶと、隣にいた水帆に驚かれたのは言うまでもなかった。