「ところで何でついて来たの?」
ホースの先を花壇に向けながら視線だけを隣へ向けると、「え、あっ…」と戸惑った彼女は、言葉に詰まらせて視線を僕から逸らしたあと、
「つ、つい、条件反射で……」
僕の目線の下にいる彼女が小動物に見えて顔が緩みそうになるのを抑えながら、そっか、と僕は返事をする。
一人よりも二人の方が楽しいから、なんてのは建前で、岩倉さんと一緒にいられるのが嬉しいーーの方が本音だろう。
「それにしても花、多過ぎない? 春夏秋冬で咲く花が違うみたいだけど、これを世話するの僕たち生徒なんだよなー」
僕は、クラスの役割は何も担わなくて気楽なものだけれど、部活や委員に入らない代わりに僕だけなぜか日直に花壇の水やりが追加されたのだ。
「でも、すごく綺麗だよね。これだけあると次はどんな花が咲くのかなって楽しみだなぁ」
「女の子って花好きな子が多いよね」
「うん。きっと嫌いな人はいないんじゃないかなぁ」
水やりをしながら僕たちは他愛もない話を続けた。
「朝のメッセージ見たときは最悪だ! なんで僕が、って思ったけどね」
「浜野くん、すごくみんなからの圧がすごかったよね」
「ね! ほんとに! 健闘を祈るとか頑張れとかさぁ……みんなほんとにひどいよね!」
他人事だと思って面白がる僕のクラスメイトは、そういうときに団結力が結集する。
みんなもっと体育祭とかでそういう力出せばいいのに。
「それに夏樹もひどかった! まさか親友に裏切られるなんて思ってなかった!」
「夏樹って……川栄くん?」
「うんそうそう。夏樹のこと……って、え? 岩倉さん夏樹のこと知ってたんだ」
「 …? 知ってるも何も同じクラスだから」
「あ、ああ、うん」
そうなんだけれど、今、〝夏樹〟ってサラッと呼び捨てにしたし、なんか以外っていうか……
……ーーはっ! もしかしたら岩倉さんってーー…
「夏樹のこと好きだったりする?」
ホースから目を離して彼女へと視線を向ければ、一瞬何を言われたのか理解できなかったようにポカンとしながら「え?」と声を漏らした。
ーーだが、しばらくして。
「なっ、ないない! ないから!」
「え、でも夏樹の名前知ってるの意外だったから…」
「浜野くんの名前も知ってるよ!」