「浜野くんは花壇の水やり…だったよね」

 スムーズに話題を振られるから心の中で感動しながら、うんうん、と首を縦に振って。

「そうなんだよ! 僕だけ花壇の水やりでさぁ……だから今すっごい走って来たんだよね」

 クラスのトークルームに彼女ももちろん含まれているから知っていて当然だ。
 顔を歪める僕を見て、クスッと笑った岩倉さんは、

「すごい嫌そうだね」
「そりゃそうだよ。だって花壇の水やりっていったって、あれ全部校長先生のコレクションだって知ってる?」
「え、そうなの? それは知らなかった」

 目をぱちくりして驚いた岩倉さんは、「でも」と小さく呟くと、

「意外と可愛いところあるんだね、校長先生って」
「え、可愛い……?」
「うん。だって校長先生、見た目はすごく厳格な人に見えるでしょ? だからなんか意外だなぁって思ったの」

 言われてみれば確かに怖そうな外見をしていることを思い出す。

「でもさぁ、だからって可愛いって表現はないんじゃない。もう七〇過ぎてるんだよ」
「うん、でも、いくつになっても可愛いは通用すると思うよ」

 僕の言葉にことごとく否定をするから、もしかしたら岩倉さんは年上がタイプなのだろうか……いや、でも、校長先生とはかなり歳が離れ過ぎているし。うーん、だけど可能性はゼロじゃない……なんて考えていると、

「あの、一応念のために言っておくけど…私、校長先生がタイプってわけじゃないからね!」

 僕の心を読んだかのようにドンピシャに釘を刺されるから驚いた僕は、え、と一瞬薄寒くなる。

「……なんで分かったの?」
「そりゃあ分かるよ。だって浜野くん、考えてることが表に出やすいんだもん」
「え、あー……」

 そういえば夏樹にもそんなこと言われたなぁ……なんて思い出して頬に触れていると、「それより」と言いかけた彼女の言葉に意識を向けると、

「花壇の水やりはよかったの?」

 そう告げられて嫌なことを思い出した僕は、思わず顔を歪めてしまった。