その日を境に岩倉さんとすれ違うたびに声をかけるようになった。
今日は天気いいねとか次の授業は体育で面倒くさいとか、他愛もないものばかりだけれど、会話が二回三回と増えてくるごとに彼女の新たな一面を垣間見れるようになった。
「へー、やっと話せるようになったのか。これでハルのお世話係も終わりかなー」
そしてそれを見た夏樹は、祝福とからかいの二つを僕にしてみせた。
けれど、そんなもので負けるような僕じゃなかった。
◇
そして今日、席替えをすることになった。
クラスからの要望があったらしい。理由は、『同じ席だと慣れて気が緩む』だとさ。でも実際そんなの言い訳だってこと先生も知ってるんだろうけれど、進路を決める大事な時期。生徒を刺激しないためにも先生は、それを受け入れることにしたんだろう。
「えっ、岩倉さん隣?!」
「う、うん。びっくりした」
「だよねぇ。俺もびっくりした!」
でも、素直に嬉しい。
今ここが教室じゃなければ思い切り叫びたい気分だ。
「よろしくね、岩倉さん!」
「うん。こちらこそ」
少し緊張しているのか、身体が縮まっているように見えた。
周りの人と挨拶が終わるとすぐに前を向いて俯き加減で座る彼女。
ここはオアシスか?! オアシスなのか!? 僕ってすごくついてる! ……それともあれかな。神様が頑張ってる僕にご褒美をくれたのかもしれないーーと僕のテンションは爆上がりする。
ちら、と隣へと視線を向ければ僕の熱視線に気づいて、恥ずかしそうに視線を右と左に動かしたあと照れくさそうに微笑むと、すぐに視線は外れた。
この席がずっと続けばいいなぁ……
「みんな今日から一ヶ月その席だからな」
けれど、ここの席は意外とお別れが早いようであと三十日もすればまた席替えがあるらしい。
もっと長くてもいいのに……いや、それより二年が終わるまでずっと。
まあでも、それは不可能なのでこの一ヶ月を利用して岩倉さんともっと仲良くなろう!