「……岩倉さん、なんか楽しんでない?」

 心なしか、夏樹と重なって見えなくもない。

「そんなことはないと思う…けど…」
「けど?」
「いつもクラスの中心にいる浜野くんとこうやって話せてるのが不思議で」
「僕がクラスの中心?」

 初めて聞いたよ、そんなこと。

「気づいてないの?」
「え、なにを……」

 全然ピンとこなくて首を傾げていると、

「浜野くん、いつも人に囲まれてる。きっと浜野くんが優しい人だからそんなふうに人に好かれるんだろうね」

 口元に手を当てながら、ふふっと笑う。

「えっ、僕が優しい? 好かれる? …それ、何かの間違いなんじゃない!?」
「ううん、そんなことないよ」

 クスッと笑ったあと、

「じゃあ私、こっちだから!」

 と、僕へ軽く手を振ると突き当たりを右へ曲がって走って行った。

「ちょ、岩倉さん?!」

 けれど彼女が僕の声に立ち止まってくれることはなかった。

 彼女のあとを追いかけることができなかったのは、僕の帰り道が突き当たりの左側だったからーー。